生徒が少ないため、必然と卒業生が少ないこの島の卒業式は、案外あっさりと終わる。

 島の外に出るクラスメイトに別れを告げたり、お世話になった先生に感謝を述べたり、飄々とした態度の九条碧海に名前も知らない青い花を贈ったり。

 悲しみに暮れることもなく、粛々と過ごし、答えのでない未来の在り方について考えていた。


「千青、答えは出たの?」
「……ううん、まだ。お母さんも碧海くんもいない場所でやっていけるのか不安なのかも」
「不安なら、僕のことは持って行っていいよ」
「何言ってんの、ばか」


 つい先日、碧海くんのお母さんが事件性のない事故で亡くなっている。それを知っている私は、自暴自棄で言ってるのかと疑い半分、心配半分で彼の様子を盗み見た。

 悲しそうにはしていなかったけど、数日は寂しそうにしていたのが、まだ記憶に残っているのだ。


「母さんはDVの元カレと僕の実の父の実家から逃げるためにこの島に来たんだってさ。詳しくは知らないけど父の実家はかなり有名で力があるから、子供を奪われるかもしれないってここまで逃げたらしいよ」


 他人事のように語った九条碧海は「大変だったわけだ」と慰めるつもりで彼の元へと駆けつけた私に向かって忘我したように呟いた。

 その様子を見て心配したものの、彼は悲しそうな泣き顔を見せるわけでもなく、静かに淡々と思い出を語って寂しさを吐き出した。私にできるのは、ただ聞いて頷くだけ。

 私は彼に与えてもらうばかりで、返し方が分からないと気づいてしまったのだ。


「僕も千青に青い色のなにかあげたいんだけど、なにも持ってないや。あ、目いる?」
「欲しいって言ったらどうするの?」
「もれなく付属品として僕がついてくる!」
「大きくて邪魔だよ」
「お利口にしてるから大丈夫だよ、わん」


 九条碧海は犬になるの? なんて笑いながら、中高と通った校舎を後にする。

 机に名前を掘るような真似もしないし、最後に校舎を探検もしない、タイムカプセルを中庭に埋めることもなく、なだらかな斜面を隣に並んで下る。

 次会う約束をするわけでもなく、ただ確実な「また明日」がなくなったことに寂しいと思った。


「卒業おめでとう、千青」


 母は花束を手に、嬉しそうに笑う。帰ってきた私を出迎えてくれて、しみじみとした口調で「こんなにおっきくなったのね」と眦を落とした。

 お店は通常通り営業したけど、常連の漁師さんたちは祝いの品やら何やらを「おめでとう」の言葉と共にくれて、盛大に盛り上がって飲んでいた。

 私も素直に嬉しくて、楽しんだと思う。


 そして、皆が帰り、夜の濃度が増していく時間。

 片付けを終えて2階の居住スペースに戻ると、あろうことかクソ野郎は女に呼び出され、今日ばかりはと諌める母と口論した挙句、思いっきり母を突き飛ばして出ていった。


 ぐしゃり、心の中でなにかが潰れた。