朝の6時が、私の起床時間。
スマホのアラームを止めて伸びをする。自室は5畳でベッドと机くらいしかない。物欲のない私はインテリアにも小物にも興味がないのだ。
そんな殺風景な部屋の中で唯一可愛げのあるものと言えば、ベッドに転がる猫のぬいぐるみ。母が子供の頃に得意の裁縫で作ってくれたもので、色褪せても糸が解れても、私には変わらない大切な宝物だ。
寝起きが良くてベッドの中で愚図ることのない私は顔を洗ってからお弁当を作る。今日から2人分。ついでに母とあのクソ野郎の朝ごはんも同時進行。
どうしてアイツの朝ごはんまで作るかというと、多忙な母に少しでも休んで欲しいため致し方なく作っているのだ。母の負担が軽くなるなら問題ない。
「……アイツの塩多めにしとこ、塩分過多でいつかぽっくり死ぬように」
クソの分だけ味加減を絶妙に間違えながら作り、あとはいつも通りの味にする。今日の朝ごはんはだし巻き玉子と焼いた鮭、ほうれん草の和え物に味噌汁。
得意のだし巻き玉子は今日も上出来。フライパンに油多めに引いて巻くと焦げ付かない。ま、出来ない場合は練習あるのみだ。
お弁当には朝ごはんメニューの他に、昨日の余り物の唐揚げを追加。彩りも栄養も考え、いい出来栄えのお弁当だ。かなり気分が良い。
朝食を食べ、見送りだけはきちんとしたいと言う母に「いってきます」を告げて、穏やかな「いってらっしゃい」の言葉に頷いて陽光の外に出る。
灼熱の太陽を手を翳して日陰を作りつつも、足早にバスに向かった。
「……おはよ」
「千青、おはよん。こっちー」
朝のいつもの時間のバス。課題を忘れる友人が自分の隣をぽすぽすと手で叩くので、大人しく従うように座る。
この時間のバスに碧海くんはいない。多分、1本前のやつで行ってるんだろうと、いつも自分より先に教室にいる彼のことを思い出して答えを導き出した。
それにしても、昨日までは気にしなかったことを気にしてしまう。
2人分のお弁当を持つ手が、そわそわした。
