大学卒業まで後五ヶ月、周りは卒業旅行の話でもちきりだ。
授業終わりにいつものように学食で紗綾と蓮斗、レオで集まり卒業旅行の日程を立てていた。
3月であればレオの仕事もちょうど落ち着いているタイミングということで、3月初旬にオーストラリアに行くことでになった。
観光スポットやアクテビティを決めるのも楽しくて、計画を立てている時からワクワクした。
蓮斗はこの他にも三つほど卒業旅行の予定があるそうで、バイトして稼がないとと嘆いている。
航空券もホテルも予約しほとんどの予定が決まった。
蓮斗はこの後バイトとのことで別れ、紗綾とレオでお喋りしていた。
そう言えば涼太くん今体調不良で活動休止してるけどなんか聞いてる?
紗綾が小声でレオに耳打ちをする。
私も気になってた!大丈夫なのかな。
するとレオは腕を組み、俺も連絡取ってるんだけど返事がないから心配してるんだよね。と寂しそうに呟いた。
そうなんだ。友達に連絡できないくらい深刻なのかな。心配だね。
そうだなぁ。メンバーなら何か知ってるかもだけど、翔とかに連絡取ってみようかな。
うん、そうしてみて。紗綾は今にも泣き出しそうな表情だ。
紗綾も次の授業があるとのことで別れ、レオと私は授業もなかったので、そろそろ帰ろうと校門に向かって歩いた。
校門を出てすぐ、あの、と誰かに呼び止められた。
突然声を掛けられ二人してびっくりして振り返る。
黒いキャップを深く被りマスクをしているた、誰か分からなかったが、俺だよという声にもしかして涼太?とレオが尋ねた。
その男性はうんと深く頷いた。
お前、心配してたんだぞ。何で連絡の一つもくれないんだよ。とレオが言うと、取り敢えずここじゃあれだからレオの車行こう。
杏梨ちゃんにも話したいことがあるから、ちょっと一緒に来て欲しい。
え、私?
そう一方的に話し終えると、そそくさと涼太は先陣切って歩き出した。
駐車場に着き、レオの車に乗り込むと涼太はちょっと待って。と何やら小さな機械を取り出し、何かを確認しているようだ。
盗聴器がないか念の為調べておく。
どうしたんだよ。涼太。そんな入念にとレオは心配そうに様子を伺う。
念の為みんなスマホの電源落としてくれる?
私は戸惑いながらもスマホの電源を落とした。
よし、大丈夫かと涼太はトーンを落とし、じゃあ話すね。レオ、連絡できなくて心配かけてごめん。
連絡する余裕がなかったんだ。と涼太は話し始めた。
今活動休止中なのは病気とかじゃないんだけど、ある出来事があってちょっとメンタル的にきてて。と涼太は今にも泣き出しそうに少し過呼吸になりながら声を絞り出して話始めた。
いいよ、無理せずゆっくりで。とレオは涼太の肩に手を添え心配している。
ありがとう。これから話すこと誰にも言わないって二人とも約束してくれる?
私とレオは事の深刻さを感じ、顔を見合わせ頷いた。
すると涼太はふぅと深呼吸し、呼吸を整え話始めた。
まず先に言っておくとこれから喋ることはかなり驚かせてしまうかもしれない。レオの事務所がどうなのかは知らないけど、俺の事務所は恋愛に制限がある分、女性と繋がれるサービスみたいなのがあるんだ。と突然ドル隊の話をし始めるではないか。
ドル隊は口外禁止で誰かに喋ったとバレた場合、アイドルとしていられなくなる可能性だってある。
それは涼太も分っているはずなのに、大丈夫なのかと私は不安になりながら涼太を見つめた。
涼太は私の不安など気にしていない様子だ。
レオは女性と繋がれるサービスって何?とキョトンとした顔で涼太を見た。
涼太は本当は言いたくないんだよなぁと小さくため息をつき、簡単に言えばやれるってこと!
するとレオは心底驚いたのか目を見開き、え。そんなサービスがあるんだと驚き硬直している。
本当はこのこと自体社外秘で、俺が言ったことバレた場合アイドルでもいられなくなるし、もしかしたら社会的に抹殺かも知れない。
えぇ。抹殺!?私が驚きの声をあげると涼太は真顔で頷いた。それほどやばい人が絡んでるってこと。
その働いている女の子たちを通称ドル隊って言って、毎回違う子がうちに来てくれるんだ。
ちなみに説明を足すと特定の子だと身バレとか彼女と勘違いして週刊誌に撮られるリスクがあるから、毎回違う女の子がくるんだけど。
と暫くの沈黙の後涼太は覚悟を決めたかのように口を開いた。
俺が活動休止前に会ったドル隊の子が死んだんだ。とポツリと呟いた。
私はびっくりしすぎて言葉が出なかった。
レオは死んだってどうして。と涼太の次の言葉を待っている。
その子、SNSの裏垢を持っててそこに俺と会った時の写真とか俺の部屋を勝手に撮っていたみたいで。その写真を最悪なことに裏垢に載せたんだよね。
それが会社にバレて、社長に呼ばれたんだ。
この部屋は俺の部屋なのかって。
俺がそうだって答えたら、もう一人横にいたガタイの良いおじさんにすぐに耳打ちして、よし、あずさはおしまいだなって言っててさ。あずさはその時会ったドル隊の子ね。
その場で少し待ってろって社長に言われて少し座って待ってたんだけど、二人で何やら話してて。
暫くして帰っていいって言われたから帰ったんだけど。
その社長に写真を見せてもらった時に、裏垢の名前もuteて覚えてたから、自分でも調べて俺の部屋の写真もろに載せてた子を見つけてさ。この子かと思って、フォロワーとかも念の為に控えておいたんだ。数十人くらいの少ないフォロワーだったし、また何かされたら嫌だなと思って監視の意味も込めてね。
そしたら数時間後また見てみたら既にその投稿は削除されててさ。やっぱ事務所の対応早いなってその時は安心したんだけど。
何か気になっちゃってその子がフォローしてた人のアカウントを覗いてみたら、あずさって子のアカウントを引用してどうして天国にいっちゃったのって書かれてたんだ。
俺それ見た時に信じられなくてさ、どうにか真実が知りたくて俺の妹に頼んで妹のアカウントでその子にあずさの友達って嘘ついて、連絡が取れないけど何か知らないかって聞いて貰ったんだ。そしたら自殺したって返信きて。
それでも信じられなくて、お葬式やるって言うからたまたま空いてタコともmあってその場所にも行ったらさ、マジでそのあずさって子だったんだ。
一度しか会ってなかったけど、とりあえずちゃんと喪服で言ってたからお線香もあげてさ。母親らしき人がずっと泣き続けててさ。周囲にあずさは自殺じゃない。殺されたんだって周りに話してたんだよ。あの子が薬を大量に飲んで死ぬはずないって。
そこからさ、社長ともう一人の男の人が喋っていたおしまいって言葉は殺すことだったんじゃないかって考えちゃって。考え出したら止まらないし、不安になってさ。
怖くなってマネージャーに聞いたんだよ。俺の家の写真漏らした子が死んだらしいけど、事務所で何かしたのかって。
そしたらマネージャー、なんで俺がそんなこと知ってるんだって怒り出してさ。このことに首を挟んじゃない。ただ静観してればいいんだよって。
事務所が全て片付けてくれるんだから余計な心配はするなって。
タイミングがタイミングだし、あずさって子のしたことは許されないことだけど、それが原因で殺されたのだとしたら俺のせいでもあるかもしれないって。考え出したら何もする気も起きなくなっちゃって、寝れなくもなってさ。
疲れもあったのか俺レッスン中に倒れちゃったんだよね。だから活動休止してるって言うね。伏し目がちに呟いた。
話を聞いて、そんなただ個人情報を漏らしただけといったらなんだが殺すだろうかと思ったが、藤田だったらやりかねないかもしれない。
その社長といたおじさんって名前は?と私が聞くと名前までは分からないけどたまにうちの事務所に来てる確か系列会社の社長だったようなと言うので、私はネットで調べこの人?と涼太に見せるとそう!この人だ!と声を上げた。
やっぱり。藤田だった。
何で杏梨知ってるのとレオは不思議そうに私を見る。
いや、えっとAトレインの会社の系列会社っていったらここかなぁと思っただけ。と咄嗟に出た出任せを口にすると推し活ってそこまで把握してるんだとレオは驚いているようだった。
するとレオは普通に考えたらだけど、個人情報流出は立派な犯罪だけどさ、ただアイドルの情報を裏垢で流したくらいで人を殺すなんてしないんじゃないかな。
だってそれって殺人じゃん。刑務所行きでしょ。
そう。だから俺は自殺に見せかけた他殺だと思ってる。
そんな都合の良いタイミングで人が死なないでしょ。
まぁ確かに。とレオも納得したようだ。
私はその話を聞いて鳥肌が立っていた。そんな簡単に人を殺してしまうのかと。
涼太は私も危ない目に遭うかも知れないと思って、この場に呼んだのだろう。
早く真相を暴いて藤田を止めないと。
何か話したら少し楽になった。こんなこと誰にも言えないし。
一人で抱え込むには辛すぎて。と涼太が口にした。
もし仮にその子が殺されてたとしても、それは涼太のせいじゃないし、そんな思い詰めることないよ。
涼太の会社ってちゃんとして大手芸能事務所だし、そんな人を殺すとかはないと思うけど、実際に涼太がそう感じたのならそうなのかも知れないし断言はできないけどさ。
正直なところ芸能界って闇が多すぎてたまにすごく辞めたくなる時あるよな。とレオは悲しそうな表情を浮かべた。
俺たちができることって、ただ目の前のことを粛々とやるだけじゃない?
しかも涼太には大勢のファンがいるわけだし。みんな心配してると思うよ。
紗綾も杏梨もすげぇ心配してたしね。とレオは私に目配せをした。
うん、そうだよな。俺が悩んでても何も解決しないしね。と涼太は俯きながら呟いた。
涼太が話をする中で、私は考えていた。
何かあった時のために二人には話しておいた方がいいのかも知れない。
私も二人に話しておきたいことがある。と話始めた。
レオにはびっくりさせちゃうかも知れないけれど、私ドル隊としてちょっと前から働き始めてたの。
唐突な私の暴露に、レオはえ、と口をさらに大きく開き、涼太もレオに言っちゃうのかと驚いた顔で私を見た。
レオはこことここで話が繋がるとは思っていなかった。
頭が混乱しそうと相当動揺しているようだった。
私は簡単にドル隊になった経緯、今青空の専属のドル隊でいること、そしてその青空から依頼を受けて真実を暴くために二人で調査していることを打ち明けた。
すると、レオはちょっと、待って。全然話についていけない。クロッズの青空さんなんてアイドル界のトップの人じゃん。
青空さんの精子を売買してるってこと?
そう。と私は静かに頷いた。
涼太はドル隊と実際に関わっているので、受け入れるのは早かった。
もしかしたら俺の精子も知らないうちに売られてるってことだよね。と意外にも冷静なトーンで口にした。
そうだね。でもその青空の精子を購入した女性の子供の遺伝子検査をしたら、青空の子じゃなかったみたいなの。
え、青空さんの精子で人工授精したはずなのに?とレオは不思議そうに聞く。
そう。私と青空さんの考え的には、恐らくドル隊の運営会社の藤田社長が怪しいなって思ってる。
と言うことは、青空の精子をその藤田社長の精子にすり替えたってこと。
うん、そう言うこと。
それってやばすぎない?人の精子を勝手に売買しているのも十分やばいけどさとレオは困ったように言う。
うん、それで遺伝子検査のために、藤田社長の髪の毛とか唾液を手に入れなきゃいけなくて。
明日ちょうど藤田社長に食事に誘われてて、その時に毛髪と唾液を取ろうと思ってると言うことを伝えた。
もしかしたら失敗して私も消されるかも知れないから、二人には言っておこうと思って。
涼太はそんな危険なこと。何で杏梨ちゃんがする必要あるの。と真剣な眼差しで問いかけた。
そうだよ、杏梨が危険を犯すことないでしょ。とレオも怒っているようだ。
危険だけど今このことを知っていて藤田社長に自然に近づけるのって私しかいなくて。しかも彼やばいことにドル隊に薬飲ませて寝させている間に無理やりやって子供を作らせて強制出産もさせてるみたいなの。
涼太とレオは顔を見合わせてマジでと戸惑っているようだ。
たくさんの女性が被害にあっているからこそ、私が真実を暴かなきゃいけないと思ってるし、もう覚悟も決めてるの。
手口としては食事に睡眠薬を盛られて意識がない状態でやるのだろうけど、事前にピルも飲んでおくし作戦も立てているから大丈夫だと思う。その動画が撮れれば藤田社長を捕まえられる証拠にもなるから何がなんでもやらないと。と私は二人に言った。
涼太は杏梨ちゃん、頼もしすぎると想定かなり外の私の打ち明け話にびっくりしたようだ。レオはというと杏梨、お願いだから辞めてくれと不安そうに私を見ている。
大丈夫。色々証拠は揃ってきているし、あともう少しなの。明日成功すれば、警察に情報提供できると思うし。青空もいてくれてるし。
どうなった経緯で杏梨が協力したのか分からないけど、杏梨に何かあったら巻き込んだ青空さんも許さないとレオは相当苛立ちを募らせているようだった。
私もなぜここまで青空の協力をしようと思ったのか自分でも分からなかった。
だけどなぜかここまできてしまった。青空のことが放っておけないほど、情が移っているのだろうか。
いつの間にか辺りは真っ暗になっていた。もうこんな時間か。二人とも送るよ。とレオは車を走らせた。
帰りの車内はほとんど誰も喋らず、ラジオから聞こえるMCの楽しそうなトークだけが響き渡っていた。
私の家の前に着くと、レオは振り返り、危ないことがあったらすぐに警察に連絡すること、わかった?とまるで母親のように厳しく私に忠告した。
うん、分かった。
涼太は杏梨ちゃん本当に無事でいて。俺も頑張るから。と握手を交わした。
車が走り去り、家に入ると早速先ほど涼太が持っていた盗聴器を確認できる機械を使ってみることにした。
先ほどの話をし、一応家の中を調べたほうがいいと私に貸してくれたのだ。
少しドキドキしながらまさかあるわけないよなと電源を入れると、その途端にピーピーと鳴り始めた。
音が鳴ると言うことは盗聴器があると言うことだ。
私は唖然とし、どこからなっているのか辺りを探した。音が早く大きくなるほど盗聴器に近いと言うことみたいだ。
するとある一点からピーピーと大きく音がしていた。
そこに目をやると、それはドル隊に入った時に鈴木秘書に渡されたボールペンだった。
私は身震いをし、そういえば仕事ではこのボールペンを使ってと言われていたんだ。
有難いことに私はそのことを忘れて全く持って持ち歩いていなかったのだが。
念の為自分の部屋を確認することにした。すると部屋中からピーピーと音が鳴り響いている。
音の出所を確認してみるとコンセントに全て盗聴器が埋め込まれているようだった。
一体誰がこんなこと。もしかして留守の間に人が入ってきてたのかな。気持ち悪すぎると私は一瞬で背筋が凍りついた。
青空との連絡のやりとりを私はなぜかいつもトイレで話していた。
閉鎖的で誰にも聞かれていないように感じていたからだったが、念の為トイレを調べてみるとトイレには盗聴器はないようだった。
逆にラッキーだったのかも知らないと思い、盗聴器があることに気持ち悪さを感じつつもすぐに取ってしまったら何か勘づかれるかも知れないと思いそのままにすることにした。
明日が終われば何とかなる。と私は不安と恐怖を感じながら浅い眠りにつくのだった。
段々と外が明るくなってきた。
夢と現実の狭間にずっといたような感覚でしっかり寝れた気がせず、重たい身体をゆっくりと起こした。
大きく伸びをして今日着ていく服装はどうしようかとクローゼットの前に立って悩む。
大人っぽい黒のワンピースに決めて、メイクもいつもより大人っぽさを意識した。
すると青空から電話がかかってきた。
私は急いでスマホを取りトイレに駆け込んだ。
そして昨日涼太から聞いた話をすべて話をし、家に盗聴器があったことも話した。
青空は電話越しでも分かるくらいに驚いている様子で、今日の藤田との食事も辞めるなら今のうちだと、涼太の話もあってか弱気になり始めていた。
るなに何かあったら、俺、一生立ち直れないし、やっぱり藤田社長は相当危険人物だと呟いた。
裏組織との繋がりもあるっていう噂も涼太くんの話で聞いていたが、本当なのかもしれない。
今回藤田社長がるなに薬を盛るのを知った上で、罠に自らかかりにいく訳じゃん。
バレたらもうおしまいだよ。
うん、分かってる。だから睡眠薬の体勢もつけたし、薬盛られるなら盛り返すまでだよ!
ちゃんと事前にピルも飲んでおくし。
ちゃんと終わったら連絡するから。
うん、本当に気を付けて。どうか無事で。
そう言って電話を切った。
この藤田と会うまでの数週間、私は不眠症ではないけれど睡眠薬を飲んでいた。
それは藤田社長に睡眠薬を盛られた時の耐性を付けておくためだ。
身体にも負担をかけている分、消してミスをしてはならない。
段々と藤田社長との食事の時間が迫るなかで、私は緊張していた。
家を出る前にピルを飲み、会社が手配した車に乗り込んだ。
杏梨さん、着きました。
そう言って降ろされたのは都内の高級ホテルだった。
やっぱりホテル内のレストランかと内心納得していると、鈴木秘書がやってきた
杏梨さん、お久しぶりです。
お元気ですか?
はい、元気です!今日は鈴木秘書もいらっしゃったんですね!
えぇ、まあ。途中で私は帰るのですが、少しだけご一緒させていただこうかと思いまして。
そうなんですね!藤田社長と二人きりだとちょっと緊張しちゃうので嬉しいです。
藤田も早く着いたようなので、向かいましょう。
案内されたのはフレンチレストランの個室だった。
藤田社長は大きな丸いテーブルに座って既にワインを飲んでいるようだった。
杏梨さん久しぶりですね。
今日は近況報告も兼ねて食事会をしようと鈴木と話してね。
沢山飲んで食べましょう!と笑顔を見せた。
お招きいただきありがとうございます。食事楽しみです。
杏梨さんにはね、ぜひ飲んで欲しいワインを用意したんだよ。君の生まれ年のワインでね。プレゼントするよ。
素敵ですね!ありがとうございます。
すると店員がやってきて、こちらが2004年のワインになりますと赤ワインをグラスに注いだ。
2004年生まれとはまだまだ若いねー。
あぁ、はい。ありがとうございます。
きっとこのワインの中に薬が盛られているんだろうと私は思った。
鈴木秘書も藤田社長も飲んでいないから。
では乾杯。と藤田社長がいい私は1口ワインを飲んだ。
ワインの味はどう?と藤田が聞くので、重厚感があって美味しいですと答えた。
本当は緊張で何も味を感じられなかったのだが。
料理を食べ始めると仕事は順調か私に聞いてきた。
はい、順調です。今は青空さんの専属なので、負担も少ないかなと感じてます。ありがたいです。
そうか。それはよかった。青空に好かれるとはなかなかやるね。
あいつは人に興味がないからなぁと言いながらごくごくとワインを飲み干した。
杏梨さん、せっかくのワインもっと飲んでくださいな。
私は極力飲まないように少しずつ飲んでいたか、促されたのなら飲むしかない。
あ、はい。ではいただきますと二杯目を口にした。
水も多く飲むように心掛けているが、段々と身体が重くけだるくなってきているのを感じた。
次はデザートというタイミングで少しお手洗いに行かせてくださいとバッグを持ち席を外した。
トイレに付くと速攻で口の中に指を突っ込み吐けるだけ吐き出した。
ちょうどマウスウォッシュがあったので口をゆすぎ鏡で自分の姿をふと見る。
吐き出したけれど身体のだるさは変わらず、かなりの薬を盛られているのかも知れないと不安で心臓がばくばくし始めた。
ミッションを達成するまでは気を張ってないと。となんとか身体を動かし、戻ろうとする。
すると鈴木秘書も御手洗いに入ってきた。
杏梨さん、お戻りが遅かったので心配で来てしまいました
。大丈夫ですか?
すると私は少し飲みすぎたのかも知れませんと鈴木秘書に正直に伝えた。
でしたら少しお部屋で休憩されますか。
ここのホテルで藤田が宿泊する予定でしてスイートの大きな部屋なので、部屋が余っているんです。
いや、そんな悪いですと私が言うとデザートはそのお部屋で食べましょう。
身体も辛そうですし、私もいるので安心してください。
そういうと私の肩を支え、先程の個室には戻らずホテルの部屋がある階に肩を持たれながら連れていかれた。
私はもう意識がないような振りをして、鈴木秘書の大丈夫かという問いかけには応えず、されるがままにベッドの上に横になった。
そして鈴木秘書は眠っちゃったのね。と静かに言い部屋を出ていった。
足音がなくなったことを確認すると私は重たい身体を起こして急いで持っていたバッグの中からカメラを取り出し、カメラを設置できる場所を急いで探した。
青空がバレないように超小型カメラを購入してくれていたおかげで、壁に飾られている絵の上に設置することが出来た。
ここなら全体を撮影出来るだろう。
これから意識がある中で藤田と行為をしなければならない。どんなことがあっても泣かずに演技し続けなきゃと緊張で手も汗ばんできていた。
するとガチガチャと音がし、誰かが入ってきた。
私のいる部屋の扉が開くとやはり藤田がひとりでやって来たようだ。
杏梨さん、起きてる?そう言って私に近づいてくる。
わたしが無反応であると分かるとよし、効いてるなと口にした。
そして、ベタベタと私の身体を触りだし、やっぱり俺が見込んだだけあってスタイル抜群だなぁと藤田の荒い息が聞こえてくる。
私は今にも吐き出しそうな気持ちを抑えて、何も抵抗せずにいた。
どうにか別のことを考えて気を紛らわせようと試みた。
藤田は興奮しているようで、どんどんと息が荒くなっている。やばいねぇ。胸も大きいし顔も可愛いし、良い遺伝子を遺してくれそうだね。
杏梨ちゃんと僕の子はきっと優秀な子になるよ。楽しみだね。
藤田はそういいながら私の服を全て脱がし、私に股がって腰をふった。
私は涙を必死でこらえ、藤田が果てるまで我慢した。
うっと藤田の声が聞こえ、身体の中にどくどくと藤田の精子が流れる感覚があったやっと終わったのか藤田は息を吐き、念には念をと自分のバッグから何かを取り出した。
僕の精子をたっぷり入れてあげるからねとなんと注射器を私の中に入れて注入した。
何かが入っていく感覚が気持ち悪く、今にも叫びだしそうだった。
私はそこから意識を失ってしまった。
暫くして目が覚めるとザーザーと遠くからシャワーの男川聞こえていた。
恐らく藤田がシャワーを浴びているのだろう。
私の乱れていた服装は元通りにされており、証拠に残らないように服を着替え直したようだ。
そして今藤田がお風呂に入っている時間がチャンスだと持ってきた睡眠薬を部屋に置かれていたすべてのミネラルウォーターのボトルを開けて中に入れた。
藤田がこれを飲んで深く眠って。お願い。と願いながら。
暫くするとシャワーから藤田が出てきたようで、また私の部屋にやってきて私が寝ていることを確認すると自分の寝室に戻っていった。
深夜三時頃私は重い身体を起こしてそっとベッドから降り、まずはお風呂場に向かった。
浴槽の方を見ると髪の毛が落ちていた。
それを丁寧に袋に入れそっとシャワー室を後にし、藤田が眠っているベッドに向かった。そっと扉を開けるとイビキをたてて寝ているようだった。
私が入れた睡眠薬入りのミネラルウォーターはほとんど飲み干しているようだ。
暫く起きないだろう。私はそのペットボトルを回収し、藤田のバッグを漁った。
スマホがあり、ロックがかかっていたが、ぐっすり眠っている藤田の指をスマホにそっとあて、指紋認証で解除した。
何かやり取りがないか見てみると鈴木秘書とのメッセージでのやり取りが記載されていた。
杏梨さん、部屋に運びました。ぐっすり寝ているようです。
了解という短いやり取りがされている。
他にはないかと色々漁ってみたが、精子売買をしているようなやり取りは見られなかった。
最後に写真フォルダを見ておこうとフォルダを開くと、沢山のフォルダがあり、人の名前ごとに分かれていた。
私の名前もある。自分の名前のフォルダを恐る恐る開けてみると先程入れられたであろう注射器の写真と私のベッドでの裸の写真が納められていた。
私は吐きたい衝動をこらえて静かにスクショをし、他のフォルダも見ていく。
するとオーナーの工藤さんのフォルダもあるではないか。
フォルダを開けてみると同じように注射器の写真と工藤さんの子供の写真が載っていた。
空生後何歳と細かく年齢ごとに写真が残されている。
しかも隠し撮りのような撮り方で、撮られている本人は気づいていないような写真ばかりだ。
もしかしてと他のフォルダを開けてみると私と同じように裸の写真と注射器の写真、そして子供の写真が気持ち悪いくらいに綺麗に整頓されてフォルダに格納されていた。
自分の子供を記録しているんだ。
写真を見て一目で分かった。
私は証拠を撮れるだけ撮って自分のスマホに納めると、バッグを持って急いでホテルを後にした。
恐らく藤田は朝まで起きないだろう。
一秒でも早くシャワーを浴びてこの汚れた身体を落としたかったが、すぐに青空に電話をかけた。
朝方四時にもかかわらずすぐに電話に出た。
恐らく眠らずに待っていたのだろう。
なんとか無事に終わったよ。今すぐ向かう。
藤田はぐっすり寝てるからまだ行動は把握されてないと思う。
証拠渡して私もすぐに家に帰らなきゃだけど。
うん、分かった。待ってる。
すぐにタクシーを拾い、青空の家に向かった。
インターホンを鳴らすとすぐに青空が扉を開けた。
青空を見た瞬間、私は何故かほっとして自然と涙が溢れ出てきた。
青空はびっくりして私を抱え、早く上がってと招き入れた。
何から話せばいいのか分からず、私は藤田の髪の毛とペットボトルを渡し、これで調べてと声を絞り出して伝えた。
今すぐに身体を洗いたい。と伝えると、青空は分かった。ちょっと待っててと走って風呂場にいき、タオルと部屋着を用意して戻ってきた。
はい、これ。お風呂使って。
私は無言で受け取るとシャワーで汚れた身体を流し、何度も何度も洗った。
ピルを飲んでいるから平気だろうが、あのどくどくと体の中に入れられた感覚がまだ残っている。
気持ち悪い。殺してやりたい。
そう思いながら悔しさと悲しさで込み上げてきた涙をシャワーと一緒に流した。
どんどん空も明るくなっている。早く家に帰らなければと急いで風呂から上がり、タオルで丁寧に身体を拭いた。
髪を乾かし、用意してくれた部屋着に着替えて出るとリビングで青空は待っていた。
るな。ごめん。と不安そうに私の様子を伺う青空に、私は頷くことしかできなかった。
昨夜の出来事を思い出すと気持ち悪さで身体が震えてしまう。
私が小刻みに震えてることに気づいたのか、青空はブランケットを私にかけそっと抱き締めた。
目を閉じるとあの光景がよみがえってきてしまう。
あのどくどくした感じを身体が覚えていて、すごく気持ちが悪かった。
私はそっと目を開け、青空を見つめた。
お願い、私と寝て。
唐突な発言に青空はびっくりと目を見開き、急にどうしたのと困惑している。
さっき、藤田に抱かれた感覚が残っていて気持ち悪いの。
上書きして欲しい。
まさか自分でもこんな発言を言うとは思わず、ごめんと下をうつ向いて涙を拭いた。
青空はぎゅっと力強く私を抱き締め、るながいいならやろう。と私をじっと見つめた。
私が小さく頷くと、青空は私に優しくキスをした。
夢の中にいるようなふわふわとした感覚で、不思議と嫌ではなかった。
優しく首元から胸へとキスが移り、服を脱がされる。
自然とソファの上に誘導され、青空も服を脱いだ。
鍛えられた腹筋が美しかった。
私はこの人に抱かれるならいいかと青空を見ながら思った。
カーテンから優しい朝日の光がこぼれる部屋で、私たちはひとつになった。
青空は行為が終わってもしばらく私を抱きしめてくれていた。
私は安心したのか、一睡もしていなかったからか自然と寝てしまった。
1時間ほどしてパッと目を覚ますと、青空も寝ていたようだ。
優しい眼差しでおはようと微笑んだ。
青空とは絶対やらないと思っていたのにと私は急に恥ずかしくなり目をそらした。
もう行かないと。藤田も起きてる頃かも。
私が慌てて準備をすると、家の前にタクシー待たせてあるからそれに乗って。
また落ち着いたら連絡する。遺伝子検査の結果が分かればすぐにでも動き出せるから。
うん。私は小さく頷き、じゃあまたね。と家を出た。
青空は待ってと私を呼び止めるると、るなの大切な身体を傷つけるようなこと、させちゃって本当にごめん。
一生償っても償いきれないことさせちゃったと思う。
るなが望むことならなんでもするよ。
責任もちゃんと取るよ。
突然の青空の言葉に私は、何も返すことができなかった。
責任なんてそんな。私が協力したくてしたことだから。
青空は目の前のことだけ頑張って生きてくれたらそれでいいよと私は静かに諭すように伝えた。
なんだか煮え切らない青空の雰囲気に耐えられず、私は半ば強引にタクシーに乗り込み。またね。と別れを告げた。
帰りのタクシーの中で先程の青空との行為が頭の中でフラッシュバックし、恥ずかしさで一人赤くなっている自分がいた。
私をまるで大切なものを扱うかのように丁寧に接してくれて、青空のやさしさが伝わってきた。
藤田のこともちらつくがそれを上回るくらい満たしてくれた気がする。
さすがスーパーアイドルだなと私はひとり呟いた。
そして悲しいけど、もう友達ではいられないなとも同時に思った。
家に着きそっと扉を開け、自分のベッドに埋もれるように倒れこんだ。
私はそのまま夜まで起きずに寝続けたのだった。
授業終わりにいつものように学食で紗綾と蓮斗、レオで集まり卒業旅行の日程を立てていた。
3月であればレオの仕事もちょうど落ち着いているタイミングということで、3月初旬にオーストラリアに行くことでになった。
観光スポットやアクテビティを決めるのも楽しくて、計画を立てている時からワクワクした。
蓮斗はこの他にも三つほど卒業旅行の予定があるそうで、バイトして稼がないとと嘆いている。
航空券もホテルも予約しほとんどの予定が決まった。
蓮斗はこの後バイトとのことで別れ、紗綾とレオでお喋りしていた。
そう言えば涼太くん今体調不良で活動休止してるけどなんか聞いてる?
紗綾が小声でレオに耳打ちをする。
私も気になってた!大丈夫なのかな。
するとレオは腕を組み、俺も連絡取ってるんだけど返事がないから心配してるんだよね。と寂しそうに呟いた。
そうなんだ。友達に連絡できないくらい深刻なのかな。心配だね。
そうだなぁ。メンバーなら何か知ってるかもだけど、翔とかに連絡取ってみようかな。
うん、そうしてみて。紗綾は今にも泣き出しそうな表情だ。
紗綾も次の授業があるとのことで別れ、レオと私は授業もなかったので、そろそろ帰ろうと校門に向かって歩いた。
校門を出てすぐ、あの、と誰かに呼び止められた。
突然声を掛けられ二人してびっくりして振り返る。
黒いキャップを深く被りマスクをしているた、誰か分からなかったが、俺だよという声にもしかして涼太?とレオが尋ねた。
その男性はうんと深く頷いた。
お前、心配してたんだぞ。何で連絡の一つもくれないんだよ。とレオが言うと、取り敢えずここじゃあれだからレオの車行こう。
杏梨ちゃんにも話したいことがあるから、ちょっと一緒に来て欲しい。
え、私?
そう一方的に話し終えると、そそくさと涼太は先陣切って歩き出した。
駐車場に着き、レオの車に乗り込むと涼太はちょっと待って。と何やら小さな機械を取り出し、何かを確認しているようだ。
盗聴器がないか念の為調べておく。
どうしたんだよ。涼太。そんな入念にとレオは心配そうに様子を伺う。
念の為みんなスマホの電源落としてくれる?
私は戸惑いながらもスマホの電源を落とした。
よし、大丈夫かと涼太はトーンを落とし、じゃあ話すね。レオ、連絡できなくて心配かけてごめん。
連絡する余裕がなかったんだ。と涼太は話し始めた。
今活動休止中なのは病気とかじゃないんだけど、ある出来事があってちょっとメンタル的にきてて。と涼太は今にも泣き出しそうに少し過呼吸になりながら声を絞り出して話始めた。
いいよ、無理せずゆっくりで。とレオは涼太の肩に手を添え心配している。
ありがとう。これから話すこと誰にも言わないって二人とも約束してくれる?
私とレオは事の深刻さを感じ、顔を見合わせ頷いた。
すると涼太はふぅと深呼吸し、呼吸を整え話始めた。
まず先に言っておくとこれから喋ることはかなり驚かせてしまうかもしれない。レオの事務所がどうなのかは知らないけど、俺の事務所は恋愛に制限がある分、女性と繋がれるサービスみたいなのがあるんだ。と突然ドル隊の話をし始めるではないか。
ドル隊は口外禁止で誰かに喋ったとバレた場合、アイドルとしていられなくなる可能性だってある。
それは涼太も分っているはずなのに、大丈夫なのかと私は不安になりながら涼太を見つめた。
涼太は私の不安など気にしていない様子だ。
レオは女性と繋がれるサービスって何?とキョトンとした顔で涼太を見た。
涼太は本当は言いたくないんだよなぁと小さくため息をつき、簡単に言えばやれるってこと!
するとレオは心底驚いたのか目を見開き、え。そんなサービスがあるんだと驚き硬直している。
本当はこのこと自体社外秘で、俺が言ったことバレた場合アイドルでもいられなくなるし、もしかしたら社会的に抹殺かも知れない。
えぇ。抹殺!?私が驚きの声をあげると涼太は真顔で頷いた。それほどやばい人が絡んでるってこと。
その働いている女の子たちを通称ドル隊って言って、毎回違う子がうちに来てくれるんだ。
ちなみに説明を足すと特定の子だと身バレとか彼女と勘違いして週刊誌に撮られるリスクがあるから、毎回違う女の子がくるんだけど。
と暫くの沈黙の後涼太は覚悟を決めたかのように口を開いた。
俺が活動休止前に会ったドル隊の子が死んだんだ。とポツリと呟いた。
私はびっくりしすぎて言葉が出なかった。
レオは死んだってどうして。と涼太の次の言葉を待っている。
その子、SNSの裏垢を持っててそこに俺と会った時の写真とか俺の部屋を勝手に撮っていたみたいで。その写真を最悪なことに裏垢に載せたんだよね。
それが会社にバレて、社長に呼ばれたんだ。
この部屋は俺の部屋なのかって。
俺がそうだって答えたら、もう一人横にいたガタイの良いおじさんにすぐに耳打ちして、よし、あずさはおしまいだなって言っててさ。あずさはその時会ったドル隊の子ね。
その場で少し待ってろって社長に言われて少し座って待ってたんだけど、二人で何やら話してて。
暫くして帰っていいって言われたから帰ったんだけど。
その社長に写真を見せてもらった時に、裏垢の名前もuteて覚えてたから、自分でも調べて俺の部屋の写真もろに載せてた子を見つけてさ。この子かと思って、フォロワーとかも念の為に控えておいたんだ。数十人くらいの少ないフォロワーだったし、また何かされたら嫌だなと思って監視の意味も込めてね。
そしたら数時間後また見てみたら既にその投稿は削除されててさ。やっぱ事務所の対応早いなってその時は安心したんだけど。
何か気になっちゃってその子がフォローしてた人のアカウントを覗いてみたら、あずさって子のアカウントを引用してどうして天国にいっちゃったのって書かれてたんだ。
俺それ見た時に信じられなくてさ、どうにか真実が知りたくて俺の妹に頼んで妹のアカウントでその子にあずさの友達って嘘ついて、連絡が取れないけど何か知らないかって聞いて貰ったんだ。そしたら自殺したって返信きて。
それでも信じられなくて、お葬式やるって言うからたまたま空いてタコともmあってその場所にも行ったらさ、マジでそのあずさって子だったんだ。
一度しか会ってなかったけど、とりあえずちゃんと喪服で言ってたからお線香もあげてさ。母親らしき人がずっと泣き続けててさ。周囲にあずさは自殺じゃない。殺されたんだって周りに話してたんだよ。あの子が薬を大量に飲んで死ぬはずないって。
そこからさ、社長ともう一人の男の人が喋っていたおしまいって言葉は殺すことだったんじゃないかって考えちゃって。考え出したら止まらないし、不安になってさ。
怖くなってマネージャーに聞いたんだよ。俺の家の写真漏らした子が死んだらしいけど、事務所で何かしたのかって。
そしたらマネージャー、なんで俺がそんなこと知ってるんだって怒り出してさ。このことに首を挟んじゃない。ただ静観してればいいんだよって。
事務所が全て片付けてくれるんだから余計な心配はするなって。
タイミングがタイミングだし、あずさって子のしたことは許されないことだけど、それが原因で殺されたのだとしたら俺のせいでもあるかもしれないって。考え出したら何もする気も起きなくなっちゃって、寝れなくもなってさ。
疲れもあったのか俺レッスン中に倒れちゃったんだよね。だから活動休止してるって言うね。伏し目がちに呟いた。
話を聞いて、そんなただ個人情報を漏らしただけといったらなんだが殺すだろうかと思ったが、藤田だったらやりかねないかもしれない。
その社長といたおじさんって名前は?と私が聞くと名前までは分からないけどたまにうちの事務所に来てる確か系列会社の社長だったようなと言うので、私はネットで調べこの人?と涼太に見せるとそう!この人だ!と声を上げた。
やっぱり。藤田だった。
何で杏梨知ってるのとレオは不思議そうに私を見る。
いや、えっとAトレインの会社の系列会社っていったらここかなぁと思っただけ。と咄嗟に出た出任せを口にすると推し活ってそこまで把握してるんだとレオは驚いているようだった。
するとレオは普通に考えたらだけど、個人情報流出は立派な犯罪だけどさ、ただアイドルの情報を裏垢で流したくらいで人を殺すなんてしないんじゃないかな。
だってそれって殺人じゃん。刑務所行きでしょ。
そう。だから俺は自殺に見せかけた他殺だと思ってる。
そんな都合の良いタイミングで人が死なないでしょ。
まぁ確かに。とレオも納得したようだ。
私はその話を聞いて鳥肌が立っていた。そんな簡単に人を殺してしまうのかと。
涼太は私も危ない目に遭うかも知れないと思って、この場に呼んだのだろう。
早く真相を暴いて藤田を止めないと。
何か話したら少し楽になった。こんなこと誰にも言えないし。
一人で抱え込むには辛すぎて。と涼太が口にした。
もし仮にその子が殺されてたとしても、それは涼太のせいじゃないし、そんな思い詰めることないよ。
涼太の会社ってちゃんとして大手芸能事務所だし、そんな人を殺すとかはないと思うけど、実際に涼太がそう感じたのならそうなのかも知れないし断言はできないけどさ。
正直なところ芸能界って闇が多すぎてたまにすごく辞めたくなる時あるよな。とレオは悲しそうな表情を浮かべた。
俺たちができることって、ただ目の前のことを粛々とやるだけじゃない?
しかも涼太には大勢のファンがいるわけだし。みんな心配してると思うよ。
紗綾も杏梨もすげぇ心配してたしね。とレオは私に目配せをした。
うん、そうだよな。俺が悩んでても何も解決しないしね。と涼太は俯きながら呟いた。
涼太が話をする中で、私は考えていた。
何かあった時のために二人には話しておいた方がいいのかも知れない。
私も二人に話しておきたいことがある。と話始めた。
レオにはびっくりさせちゃうかも知れないけれど、私ドル隊としてちょっと前から働き始めてたの。
唐突な私の暴露に、レオはえ、と口をさらに大きく開き、涼太もレオに言っちゃうのかと驚いた顔で私を見た。
レオはこことここで話が繋がるとは思っていなかった。
頭が混乱しそうと相当動揺しているようだった。
私は簡単にドル隊になった経緯、今青空の専属のドル隊でいること、そしてその青空から依頼を受けて真実を暴くために二人で調査していることを打ち明けた。
すると、レオはちょっと、待って。全然話についていけない。クロッズの青空さんなんてアイドル界のトップの人じゃん。
青空さんの精子を売買してるってこと?
そう。と私は静かに頷いた。
涼太はドル隊と実際に関わっているので、受け入れるのは早かった。
もしかしたら俺の精子も知らないうちに売られてるってことだよね。と意外にも冷静なトーンで口にした。
そうだね。でもその青空の精子を購入した女性の子供の遺伝子検査をしたら、青空の子じゃなかったみたいなの。
え、青空さんの精子で人工授精したはずなのに?とレオは不思議そうに聞く。
そう。私と青空さんの考え的には、恐らくドル隊の運営会社の藤田社長が怪しいなって思ってる。
と言うことは、青空の精子をその藤田社長の精子にすり替えたってこと。
うん、そう言うこと。
それってやばすぎない?人の精子を勝手に売買しているのも十分やばいけどさとレオは困ったように言う。
うん、それで遺伝子検査のために、藤田社長の髪の毛とか唾液を手に入れなきゃいけなくて。
明日ちょうど藤田社長に食事に誘われてて、その時に毛髪と唾液を取ろうと思ってると言うことを伝えた。
もしかしたら失敗して私も消されるかも知れないから、二人には言っておこうと思って。
涼太はそんな危険なこと。何で杏梨ちゃんがする必要あるの。と真剣な眼差しで問いかけた。
そうだよ、杏梨が危険を犯すことないでしょ。とレオも怒っているようだ。
危険だけど今このことを知っていて藤田社長に自然に近づけるのって私しかいなくて。しかも彼やばいことにドル隊に薬飲ませて寝させている間に無理やりやって子供を作らせて強制出産もさせてるみたいなの。
涼太とレオは顔を見合わせてマジでと戸惑っているようだ。
たくさんの女性が被害にあっているからこそ、私が真実を暴かなきゃいけないと思ってるし、もう覚悟も決めてるの。
手口としては食事に睡眠薬を盛られて意識がない状態でやるのだろうけど、事前にピルも飲んでおくし作戦も立てているから大丈夫だと思う。その動画が撮れれば藤田社長を捕まえられる証拠にもなるから何がなんでもやらないと。と私は二人に言った。
涼太は杏梨ちゃん、頼もしすぎると想定かなり外の私の打ち明け話にびっくりしたようだ。レオはというと杏梨、お願いだから辞めてくれと不安そうに私を見ている。
大丈夫。色々証拠は揃ってきているし、あともう少しなの。明日成功すれば、警察に情報提供できると思うし。青空もいてくれてるし。
どうなった経緯で杏梨が協力したのか分からないけど、杏梨に何かあったら巻き込んだ青空さんも許さないとレオは相当苛立ちを募らせているようだった。
私もなぜここまで青空の協力をしようと思ったのか自分でも分からなかった。
だけどなぜかここまできてしまった。青空のことが放っておけないほど、情が移っているのだろうか。
いつの間にか辺りは真っ暗になっていた。もうこんな時間か。二人とも送るよ。とレオは車を走らせた。
帰りの車内はほとんど誰も喋らず、ラジオから聞こえるMCの楽しそうなトークだけが響き渡っていた。
私の家の前に着くと、レオは振り返り、危ないことがあったらすぐに警察に連絡すること、わかった?とまるで母親のように厳しく私に忠告した。
うん、分かった。
涼太は杏梨ちゃん本当に無事でいて。俺も頑張るから。と握手を交わした。
車が走り去り、家に入ると早速先ほど涼太が持っていた盗聴器を確認できる機械を使ってみることにした。
先ほどの話をし、一応家の中を調べたほうがいいと私に貸してくれたのだ。
少しドキドキしながらまさかあるわけないよなと電源を入れると、その途端にピーピーと鳴り始めた。
音が鳴ると言うことは盗聴器があると言うことだ。
私は唖然とし、どこからなっているのか辺りを探した。音が早く大きくなるほど盗聴器に近いと言うことみたいだ。
するとある一点からピーピーと大きく音がしていた。
そこに目をやると、それはドル隊に入った時に鈴木秘書に渡されたボールペンだった。
私は身震いをし、そういえば仕事ではこのボールペンを使ってと言われていたんだ。
有難いことに私はそのことを忘れて全く持って持ち歩いていなかったのだが。
念の為自分の部屋を確認することにした。すると部屋中からピーピーと音が鳴り響いている。
音の出所を確認してみるとコンセントに全て盗聴器が埋め込まれているようだった。
一体誰がこんなこと。もしかして留守の間に人が入ってきてたのかな。気持ち悪すぎると私は一瞬で背筋が凍りついた。
青空との連絡のやりとりを私はなぜかいつもトイレで話していた。
閉鎖的で誰にも聞かれていないように感じていたからだったが、念の為トイレを調べてみるとトイレには盗聴器はないようだった。
逆にラッキーだったのかも知らないと思い、盗聴器があることに気持ち悪さを感じつつもすぐに取ってしまったら何か勘づかれるかも知れないと思いそのままにすることにした。
明日が終われば何とかなる。と私は不安と恐怖を感じながら浅い眠りにつくのだった。
段々と外が明るくなってきた。
夢と現実の狭間にずっといたような感覚でしっかり寝れた気がせず、重たい身体をゆっくりと起こした。
大きく伸びをして今日着ていく服装はどうしようかとクローゼットの前に立って悩む。
大人っぽい黒のワンピースに決めて、メイクもいつもより大人っぽさを意識した。
すると青空から電話がかかってきた。
私は急いでスマホを取りトイレに駆け込んだ。
そして昨日涼太から聞いた話をすべて話をし、家に盗聴器があったことも話した。
青空は電話越しでも分かるくらいに驚いている様子で、今日の藤田との食事も辞めるなら今のうちだと、涼太の話もあってか弱気になり始めていた。
るなに何かあったら、俺、一生立ち直れないし、やっぱり藤田社長は相当危険人物だと呟いた。
裏組織との繋がりもあるっていう噂も涼太くんの話で聞いていたが、本当なのかもしれない。
今回藤田社長がるなに薬を盛るのを知った上で、罠に自らかかりにいく訳じゃん。
バレたらもうおしまいだよ。
うん、分かってる。だから睡眠薬の体勢もつけたし、薬盛られるなら盛り返すまでだよ!
ちゃんと事前にピルも飲んでおくし。
ちゃんと終わったら連絡するから。
うん、本当に気を付けて。どうか無事で。
そう言って電話を切った。
この藤田と会うまでの数週間、私は不眠症ではないけれど睡眠薬を飲んでいた。
それは藤田社長に睡眠薬を盛られた時の耐性を付けておくためだ。
身体にも負担をかけている分、消してミスをしてはならない。
段々と藤田社長との食事の時間が迫るなかで、私は緊張していた。
家を出る前にピルを飲み、会社が手配した車に乗り込んだ。
杏梨さん、着きました。
そう言って降ろされたのは都内の高級ホテルだった。
やっぱりホテル内のレストランかと内心納得していると、鈴木秘書がやってきた
杏梨さん、お久しぶりです。
お元気ですか?
はい、元気です!今日は鈴木秘書もいらっしゃったんですね!
えぇ、まあ。途中で私は帰るのですが、少しだけご一緒させていただこうかと思いまして。
そうなんですね!藤田社長と二人きりだとちょっと緊張しちゃうので嬉しいです。
藤田も早く着いたようなので、向かいましょう。
案内されたのはフレンチレストランの個室だった。
藤田社長は大きな丸いテーブルに座って既にワインを飲んでいるようだった。
杏梨さん久しぶりですね。
今日は近況報告も兼ねて食事会をしようと鈴木と話してね。
沢山飲んで食べましょう!と笑顔を見せた。
お招きいただきありがとうございます。食事楽しみです。
杏梨さんにはね、ぜひ飲んで欲しいワインを用意したんだよ。君の生まれ年のワインでね。プレゼントするよ。
素敵ですね!ありがとうございます。
すると店員がやってきて、こちらが2004年のワインになりますと赤ワインをグラスに注いだ。
2004年生まれとはまだまだ若いねー。
あぁ、はい。ありがとうございます。
きっとこのワインの中に薬が盛られているんだろうと私は思った。
鈴木秘書も藤田社長も飲んでいないから。
では乾杯。と藤田社長がいい私は1口ワインを飲んだ。
ワインの味はどう?と藤田が聞くので、重厚感があって美味しいですと答えた。
本当は緊張で何も味を感じられなかったのだが。
料理を食べ始めると仕事は順調か私に聞いてきた。
はい、順調です。今は青空さんの専属なので、負担も少ないかなと感じてます。ありがたいです。
そうか。それはよかった。青空に好かれるとはなかなかやるね。
あいつは人に興味がないからなぁと言いながらごくごくとワインを飲み干した。
杏梨さん、せっかくのワインもっと飲んでくださいな。
私は極力飲まないように少しずつ飲んでいたか、促されたのなら飲むしかない。
あ、はい。ではいただきますと二杯目を口にした。
水も多く飲むように心掛けているが、段々と身体が重くけだるくなってきているのを感じた。
次はデザートというタイミングで少しお手洗いに行かせてくださいとバッグを持ち席を外した。
トイレに付くと速攻で口の中に指を突っ込み吐けるだけ吐き出した。
ちょうどマウスウォッシュがあったので口をゆすぎ鏡で自分の姿をふと見る。
吐き出したけれど身体のだるさは変わらず、かなりの薬を盛られているのかも知れないと不安で心臓がばくばくし始めた。
ミッションを達成するまでは気を張ってないと。となんとか身体を動かし、戻ろうとする。
すると鈴木秘書も御手洗いに入ってきた。
杏梨さん、お戻りが遅かったので心配で来てしまいました
。大丈夫ですか?
すると私は少し飲みすぎたのかも知れませんと鈴木秘書に正直に伝えた。
でしたら少しお部屋で休憩されますか。
ここのホテルで藤田が宿泊する予定でしてスイートの大きな部屋なので、部屋が余っているんです。
いや、そんな悪いですと私が言うとデザートはそのお部屋で食べましょう。
身体も辛そうですし、私もいるので安心してください。
そういうと私の肩を支え、先程の個室には戻らずホテルの部屋がある階に肩を持たれながら連れていかれた。
私はもう意識がないような振りをして、鈴木秘書の大丈夫かという問いかけには応えず、されるがままにベッドの上に横になった。
そして鈴木秘書は眠っちゃったのね。と静かに言い部屋を出ていった。
足音がなくなったことを確認すると私は重たい身体を起こして急いで持っていたバッグの中からカメラを取り出し、カメラを設置できる場所を急いで探した。
青空がバレないように超小型カメラを購入してくれていたおかげで、壁に飾られている絵の上に設置することが出来た。
ここなら全体を撮影出来るだろう。
これから意識がある中で藤田と行為をしなければならない。どんなことがあっても泣かずに演技し続けなきゃと緊張で手も汗ばんできていた。
するとガチガチャと音がし、誰かが入ってきた。
私のいる部屋の扉が開くとやはり藤田がひとりでやって来たようだ。
杏梨さん、起きてる?そう言って私に近づいてくる。
わたしが無反応であると分かるとよし、効いてるなと口にした。
そして、ベタベタと私の身体を触りだし、やっぱり俺が見込んだだけあってスタイル抜群だなぁと藤田の荒い息が聞こえてくる。
私は今にも吐き出しそうな気持ちを抑えて、何も抵抗せずにいた。
どうにか別のことを考えて気を紛らわせようと試みた。
藤田は興奮しているようで、どんどんと息が荒くなっている。やばいねぇ。胸も大きいし顔も可愛いし、良い遺伝子を遺してくれそうだね。
杏梨ちゃんと僕の子はきっと優秀な子になるよ。楽しみだね。
藤田はそういいながら私の服を全て脱がし、私に股がって腰をふった。
私は涙を必死でこらえ、藤田が果てるまで我慢した。
うっと藤田の声が聞こえ、身体の中にどくどくと藤田の精子が流れる感覚があったやっと終わったのか藤田は息を吐き、念には念をと自分のバッグから何かを取り出した。
僕の精子をたっぷり入れてあげるからねとなんと注射器を私の中に入れて注入した。
何かが入っていく感覚が気持ち悪く、今にも叫びだしそうだった。
私はそこから意識を失ってしまった。
暫くして目が覚めるとザーザーと遠くからシャワーの男川聞こえていた。
恐らく藤田がシャワーを浴びているのだろう。
私の乱れていた服装は元通りにされており、証拠に残らないように服を着替え直したようだ。
そして今藤田がお風呂に入っている時間がチャンスだと持ってきた睡眠薬を部屋に置かれていたすべてのミネラルウォーターのボトルを開けて中に入れた。
藤田がこれを飲んで深く眠って。お願い。と願いながら。
暫くするとシャワーから藤田が出てきたようで、また私の部屋にやってきて私が寝ていることを確認すると自分の寝室に戻っていった。
深夜三時頃私は重い身体を起こしてそっとベッドから降り、まずはお風呂場に向かった。
浴槽の方を見ると髪の毛が落ちていた。
それを丁寧に袋に入れそっとシャワー室を後にし、藤田が眠っているベッドに向かった。そっと扉を開けるとイビキをたてて寝ているようだった。
私が入れた睡眠薬入りのミネラルウォーターはほとんど飲み干しているようだ。
暫く起きないだろう。私はそのペットボトルを回収し、藤田のバッグを漁った。
スマホがあり、ロックがかかっていたが、ぐっすり眠っている藤田の指をスマホにそっとあて、指紋認証で解除した。
何かやり取りがないか見てみると鈴木秘書とのメッセージでのやり取りが記載されていた。
杏梨さん、部屋に運びました。ぐっすり寝ているようです。
了解という短いやり取りがされている。
他にはないかと色々漁ってみたが、精子売買をしているようなやり取りは見られなかった。
最後に写真フォルダを見ておこうとフォルダを開くと、沢山のフォルダがあり、人の名前ごとに分かれていた。
私の名前もある。自分の名前のフォルダを恐る恐る開けてみると先程入れられたであろう注射器の写真と私のベッドでの裸の写真が納められていた。
私は吐きたい衝動をこらえて静かにスクショをし、他のフォルダも見ていく。
するとオーナーの工藤さんのフォルダもあるではないか。
フォルダを開けてみると同じように注射器の写真と工藤さんの子供の写真が載っていた。
空生後何歳と細かく年齢ごとに写真が残されている。
しかも隠し撮りのような撮り方で、撮られている本人は気づいていないような写真ばかりだ。
もしかしてと他のフォルダを開けてみると私と同じように裸の写真と注射器の写真、そして子供の写真が気持ち悪いくらいに綺麗に整頓されてフォルダに格納されていた。
自分の子供を記録しているんだ。
写真を見て一目で分かった。
私は証拠を撮れるだけ撮って自分のスマホに納めると、バッグを持って急いでホテルを後にした。
恐らく藤田は朝まで起きないだろう。
一秒でも早くシャワーを浴びてこの汚れた身体を落としたかったが、すぐに青空に電話をかけた。
朝方四時にもかかわらずすぐに電話に出た。
恐らく眠らずに待っていたのだろう。
なんとか無事に終わったよ。今すぐ向かう。
藤田はぐっすり寝てるからまだ行動は把握されてないと思う。
証拠渡して私もすぐに家に帰らなきゃだけど。
うん、分かった。待ってる。
すぐにタクシーを拾い、青空の家に向かった。
インターホンを鳴らすとすぐに青空が扉を開けた。
青空を見た瞬間、私は何故かほっとして自然と涙が溢れ出てきた。
青空はびっくりして私を抱え、早く上がってと招き入れた。
何から話せばいいのか分からず、私は藤田の髪の毛とペットボトルを渡し、これで調べてと声を絞り出して伝えた。
今すぐに身体を洗いたい。と伝えると、青空は分かった。ちょっと待っててと走って風呂場にいき、タオルと部屋着を用意して戻ってきた。
はい、これ。お風呂使って。
私は無言で受け取るとシャワーで汚れた身体を流し、何度も何度も洗った。
ピルを飲んでいるから平気だろうが、あのどくどくと体の中に入れられた感覚がまだ残っている。
気持ち悪い。殺してやりたい。
そう思いながら悔しさと悲しさで込み上げてきた涙をシャワーと一緒に流した。
どんどん空も明るくなっている。早く家に帰らなければと急いで風呂から上がり、タオルで丁寧に身体を拭いた。
髪を乾かし、用意してくれた部屋着に着替えて出るとリビングで青空は待っていた。
るな。ごめん。と不安そうに私の様子を伺う青空に、私は頷くことしかできなかった。
昨夜の出来事を思い出すと気持ち悪さで身体が震えてしまう。
私が小刻みに震えてることに気づいたのか、青空はブランケットを私にかけそっと抱き締めた。
目を閉じるとあの光景がよみがえってきてしまう。
あのどくどくした感じを身体が覚えていて、すごく気持ちが悪かった。
私はそっと目を開け、青空を見つめた。
お願い、私と寝て。
唐突な発言に青空はびっくりと目を見開き、急にどうしたのと困惑している。
さっき、藤田に抱かれた感覚が残っていて気持ち悪いの。
上書きして欲しい。
まさか自分でもこんな発言を言うとは思わず、ごめんと下をうつ向いて涙を拭いた。
青空はぎゅっと力強く私を抱き締め、るながいいならやろう。と私をじっと見つめた。
私が小さく頷くと、青空は私に優しくキスをした。
夢の中にいるようなふわふわとした感覚で、不思議と嫌ではなかった。
優しく首元から胸へとキスが移り、服を脱がされる。
自然とソファの上に誘導され、青空も服を脱いだ。
鍛えられた腹筋が美しかった。
私はこの人に抱かれるならいいかと青空を見ながら思った。
カーテンから優しい朝日の光がこぼれる部屋で、私たちはひとつになった。
青空は行為が終わってもしばらく私を抱きしめてくれていた。
私は安心したのか、一睡もしていなかったからか自然と寝てしまった。
1時間ほどしてパッと目を覚ますと、青空も寝ていたようだ。
優しい眼差しでおはようと微笑んだ。
青空とは絶対やらないと思っていたのにと私は急に恥ずかしくなり目をそらした。
もう行かないと。藤田も起きてる頃かも。
私が慌てて準備をすると、家の前にタクシー待たせてあるからそれに乗って。
また落ち着いたら連絡する。遺伝子検査の結果が分かればすぐにでも動き出せるから。
うん。私は小さく頷き、じゃあまたね。と家を出た。
青空は待ってと私を呼び止めるると、るなの大切な身体を傷つけるようなこと、させちゃって本当にごめん。
一生償っても償いきれないことさせちゃったと思う。
るなが望むことならなんでもするよ。
責任もちゃんと取るよ。
突然の青空の言葉に私は、何も返すことができなかった。
責任なんてそんな。私が協力したくてしたことだから。
青空は目の前のことだけ頑張って生きてくれたらそれでいいよと私は静かに諭すように伝えた。
なんだか煮え切らない青空の雰囲気に耐えられず、私は半ば強引にタクシーに乗り込み。またね。と別れを告げた。
帰りのタクシーの中で先程の青空との行為が頭の中でフラッシュバックし、恥ずかしさで一人赤くなっている自分がいた。
私をまるで大切なものを扱うかのように丁寧に接してくれて、青空のやさしさが伝わってきた。
藤田のこともちらつくがそれを上回るくらい満たしてくれた気がする。
さすがスーパーアイドルだなと私はひとり呟いた。
そして悲しいけど、もう友達ではいられないなとも同時に思った。
家に着きそっと扉を開け、自分のベッドに埋もれるように倒れこんだ。
私はそのまま夜まで起きずに寝続けたのだった。
