「達樹さ」

「美優」



 耳元で私の名前を呼ぶ達樹さん。達樹さんが私の名前を呼ぶたびに、私を抱きしめる力が強くなる。何度も私の名前を呼ぶ達樹さん。その姿は、私が見たことのない達樹さんの姿だった。



「本当は、名前で呼びたかった。美優にいっぱい触れたかった。でも触れるのが怖かった」

「……どうして?」

「美優を大切にしたくて。こんなに大切だと思える人は初めてで。美優に触れたかったけど、体目的だとか思われたらどうしようってそればかり考えていて。勇気が出なかった」



 そんなふうに思ってくれていたなんて知らなかった。不安だった気持ちが解けていく。

 私は達樹さんの背中にそっと手を回した。初めて触れる彼の背中。あたたかくて、無性に安心する体温。



「俺の勝手な気持ちで、美優を不安にさせてたのは本当にごめん」



 私は達樹さんの腕の中で首を横に振る。



「デートのときは手を繋いでくれる?」

「うん」

「写真も撮ってくれる?」

「もちろん」

「お揃いもしたい」

「次デートしたとき、見に行こう」

「キスもして欲しい」

「していいの?」

「そこは聞き返さないでよ」



 顔を見合わせて笑う。

 達樹さんが私の頬にそっと触れる。達樹さんの瞳が私をとらえて離さない。どちらともなく目を閉じる。ゆっくりと唇が触れた。

 あたたかい感触。私、達樹さんとキスしてるんだ――。

 胸の奥が熱くなる。なにかがこみあげてくるような、そんな感覚。

 もっと、触れたい。もっと触れて欲しい。もっと。達樹さんが欲しい。

 私は達樹さんと一緒にいたい。離れたくない。ずっと、この温もりを感じていたい。誰よりも達樹さんの近くにいたい。

 そっと離れる唇。達樹の頬が、心なしか赤く染まっている。きっと、私の頬も赤くなっているんだろう。