達樹さんがキッチンに立つ。包丁のリズミカルな音が心地いい。料理に関してはド素人の私だけど、達樹さんの包丁さばきはプロなんだなって分かる。だって、包丁がまな板に当たる音がすごく早くて、一定のリズムで聞こえてくる。その後姿さえかっこいい。思わず見とれてしまう。

 達樹さんが、私の彼氏になったんだよね……。

 あの告白から、恋人らしい空気には全くならなかった。手も繋いでないし、キスとかもまだ。いや、キスはさすがに早いと思うよ⁉ だけど、元カレは付き合った当日に、そういう流れになった。正直マッチングアプリで出会った人は、恋に飢えていて、人肌恋しい人が多くて、付き合ったら即イチャイチャしたい人ばかりだと思っていた。今思い出すことじゃないし、思い出したくもないけど、元カレはその典型的パターンだった。

 それが当たり前だと思っていた私もどうかしていると思うけど、達樹さんはなにもしてこないのかな?ってちょっとだけ、寂しくも思う。ショッピングモールで歩くときとか手を繋いでくれたっていいのになって。私が「手を繋ぎたい」って言えばいいんだろうけど、がっつきすぎ、とか思われたくなくて。達樹さんは私と手を繋ぎたいとか思ってくれるのかな。……まあ、人前で手を繋ぐのは恥ずかしいって人もいるか。私は人前とか気にしないで手を繋ぎたいけど、達樹さんは気にするタイプなのかも。

 そのうち、手を繋げるようになるよね……。


 それにしても広い部屋だ。私の部屋の二倍の広さはある。奥にはキッチン、その反対側にはベッドも置いてある。

 よく見ると、この広い部屋はもともと二つに分かれていたようだ。ふすまかなにかを取っ払ったような跡がある。

 たくさん部屋があるのもいいけど、部屋をひとつにするのもいいな。開放感があるし、ベッドの近くに座っていても、キッチンに立つ達樹さんが見える。好きな人の姿は見ていたいもの。