「た、達樹さんって、お仕事で料理されているんですよね」

「そうだよ」

「えっと。どうして料理のお仕事に就いたんですか?」



 なにかしゃべらなきゃ。そう思って、とっさに出た言葉。達樹さんに見つめられたままだと、なんだか顔が熱くなってくる。顔だけじゃない。体全体が熱くなる。ドキドキしているなんて、今は、達樹さんに知られたくない。



「んー。料理業界に入った理由かぁ」

「言いたくなかったらいいんです!」

「そういうわけじゃないよ」



 そう言って達樹さんが微笑んだ。それと同時に青に変わる信号。達樹さんは前を向いて、再び車を走らせた。

「俺が、いつか結婚できたら、その人に料理を作ってあげたいんだ」

「料理を?」

「うん。結婚した人が仕事をしている人だったら、お互い共働きになるでしょ。そうなったら、俺が食事を作ってあげたい。疲れている彼女を少しでも癒してあげたいんだ」

「達樹さんも疲れているかもしれないのに、相手のために……」

「俺が疲れていたとしても作りたいって思う。きっと、好きな人の笑顔を見ることができたら、俺は元気になっちゃうから」