ちょうどその時、俺を呼ぶ騒がしい声が頭上から響いてきた。

「ちょっと祐司。起きなさい、祐司」
「おい、騒がしいぞ、レタリー」

 俺は、店舗の天井に取り付けられたスピーカーを睨みつける。しかし、声は全く止まない。

「祐司。しっかりしなさい。目を開けるのよ」

 頭上から降ってくる声に俺は眉を顰め、首を傾げる。レタリーの声じゃない。だが、どこかで聞いたことのある声だ。

 ひっきりなしに俺を呼ぶその声に意識を集中させる。すると、脳裏に、普段はあまり言葉を交わさない母の顔が浮かんだ。

「……母ちゃん?」

 俺の口からポロリと転がり落ちたその言葉は、まるでそれが質量を持っていたかのように、俺の足元に波紋を作り、それは、次第に空間自体を歪め、やがて、俺を飲み込んだ。

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 瞼に微かな刺激を感じて、ゆっくりと目を開ける。ぼんやりとした視界に広がるのは、うっすらとしたクリーム色。そのまま、ただそれを見つめていると、次第に視界も意識もはっきりとしてきた。どうやら、俺は横たわっているようだ。視界に広がるのは、知らない天井。

「祐司!!」

 突然、枕元で遠慮のない声がして、視線だけでそちらを見れば、母が必死の形相で、俺を見ていた。

「……母ちゃん?」

 かすれた声で呼びかけると、母は、涙声で勢いよく俺を叱り飛ばす。

「あんたって子は! いきなり車道に飛び出すなんて、何考えてるの!! 命があったから良かったものの、もう少しで……」

 母の剣幕と状況が分からず、俺は思わず、声の出ない声で、母を制した。

「母ちゃん。何言ってるの? ここは? 俺は店に居たはずなのに……」
「店? あんたこそ、何言ってるの? ああ、やっぱり、頭を打ったのかしら。後で検査してもらわなきゃ」
「検査?」
「ここは病院よ。あんた、事故に遭って、死にかけたのよ」
「事故?」
「そうよ。覚えてないの?」

 母の言葉に俺は眉を顰める。その拍子に、ズキリと頭が痛んだ。よくよく意識してみれば、俺は至る所に包帯を巻き付けていた。

「今日って、何年何月何日?」
「今日? 今日は……」

 母の答えに愕然とする。だって、今日は、確かに俺が事故に遭った日だったから。俺が会社を辞めた日。つまり、今日から俺は、無職だった。

「そんな……。レンタルフットは? 勝ち組ライフは?」

 呆然とつぶやく俺に、母は呆れたように言う。

「勝ち組ライフって、何よ? あんたは万年一般庶民よ」







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『レンタルフット始めます』、完結しました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
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さてさて明日からは、長編『雲の上は、いつも晴れだった。』が連載開始!
雲の上で暮らしていた女の子の成長物語です。
明日の15時をお楽しみに♪