だけど須田くんは同級生。つまり次の日に学校に行けば会っちゃうんだよね。
 どうしようかと心臓をバクバクさせながら登校したけど、それは向こうも同じだったらしい。

「あ、林原――ごめん」

 朝、須田くんはいつもより早く来ていた。そしてわたしの顔を見るなり近づいてきて、小さな声で謝ってくれた。

「謝られることじゃないよ……」

 わたしはまた恥ずかしくなってしまい、ぼそぼそとこたえた。

「でも盗み聴きはダメだろ。わりぃ」
「う、まあ。びっくりしたけど……」
「ほんと、うまくてさ……すげえカッコよかった」
「あり、がと……」
「あのアニメ、俺も観てた。難しい曲なのに軽く歌っててビビったー。でも次にいきなり子ども番組になってズッコケたんだ。なつかしかったけどさ」

 ははは、と笑って須田くんは離れていった。
 コケさせてしまったか……それでザザッて枝が鳴ったわけね。

 でも『うまい』『カッコいい』と言われたのはとても嬉しい。ちょっとだけ自信をもらって、わたしは須田くんに感謝した。


 教室の自分の席に着き、須田くんのことをチラリと盗み見る。友だちと何かをしゃべっている横顔にドキドキした。こっちを見ないから、わたしのことをどうこう言ったりはしていないらしい。
 いい人、だな。
 これまではただの同級生だったけど、なんだか意識してしまう。ヘンなところを見られちゃったせい。

 ……歌が聴こえて立ちどまるなんて、須田くんも音楽をやっていたりするのかな?