夜になってベッドでゴロゴロしていたら、また須田くんからLINEがきた。ちょっと長いのが。

[自信、ての考えてたんだけど
 よくわかんないんだ
 林原は客観的にちゃんとしてるし]

[外向きでちゃんとしていられるように
 がんばってるからキツいのか?
 そういうのあるかも]

[がんばらなきゃダメな自分、ていうのも
 情けなくなるよな
 俺もたまに、まあまあヘコむ]

 着信を読みながら、わたしはどう返せばいいか考えてしまっていた。
 なのにまだ須田くんの言葉は続く。返信がぜんぜん間に合わなかった。

[経緯とか知らないくせに失礼すぎるけど
 的はずれだったらごめん]

[だいじなのは
 林原自身がどうなりたいかだと思う
 違うかな]

 既読にしているのに返信の文面がまとまらないわたしの手は、完全にとまった。
 わたしがどうなりたいか。
 それは――――。

[歌う人になれればいいって言ってたのは
 まだ有効?]

 わたしがトークを開いていると知りながらたたみかける須田くんの言葉は、世界から逃げようとしていたわたしののどに刺さった。

 知らずに息があがる。
 鼓動が速まる。
 歌いたい。
 気持ちがふくれあがった。

[俺、林原はそうなれると思う
 声が戻ったら俺の曲、歌ってよ]

 ――――ああ。

[自信持ってくれ
 俺が林原を
 歌う人にするから]

 わたしはくちびるをかみ、必死に文字を打つ。指がふるえた。

[ありがとう]

[わたし]

[うたいたい]

 かろうじてそれだけを返す。
 スマホを胸に抱えて深呼吸した。

 そっと画面を確認すると、須田くんから返ってきたのはクラッカーを鳴らすスタンプ。通話じゃないけど、つぶやいてみる。

「(うたいたい、よ)」

 のどから出たのは、まだかすれたままのささやきだった。



 ――こんな声じゃうたえない。
 須田くんの作る曲をうたうんだ、わたしは。

 そう思うのに、ままならない自分ののど。くやしくて泣きそうで、顔をゆがめた。
 でも我慢する。もう泣きたくない。



 取り戻したい。声を。
 うたいたい。もういちど。

 須田くんの曲が完成したら、それをうたうのはわたしでありたいと願った。
 ほかの人にうたわせたくない。

 とても我がままなことを考えたわたしは、須田くんが書いてくれたメモを取り出してながめた。


〈林原は 歌う人だと思う〉


 ――そうなりたい。
 わたしは机の引き出しから糊を探し出し、そのメモを大事にスクラップした。会話用ノートのいちばん最後のページに。

 その言葉の場所へたどり着けるよう、祈りをこめて。