朝川さんは僕と違って、自分に正直に生きている。なかなか真似できないことだ。

 それから迷子の僕にいろいろな服を着させてくれた。いや、途中から朝川さんの方が率先して楽しんでいた気がする。

「着せ替え人形みたいにしてごめん!」
「いいよ、こっちこそ服沢山着ちゃってごめん」
「大丈夫。試着なら洗濯する程じゃないし」

 そう言いながら、僕にスマートフォンの画面を見せてきた。そこにはずらりと僕の試着写真が並べられている。えっと、地中に埋まっていいかな。

「全部似合ってる。こういう系統だと派手めのメイクしたら映えると思う。こっちはもっと清楚な感じ。どれか気に入るものあった?」

 ウキウキしている朝川さんが眩しい。自分が好きなものを好きって言える人はいろんなことを楽しめてすごい。僕は僕の写真を見るだけでダメージを受けているというのに。

 目を細めながら目の前の困難に立ち向かう。

 試着している時はふわふわした気持ちで実感が湧かなかったけど、こうして結果を見ると意外と客観的に観察できた。

「迷う……」
「時間はいくらでもあるから。今日決めなくてもいいし、良いのが無ければ探しに行けばいいし」

 朝川さんが優しく背中を押してくれる。

「可愛いのが好きなんだけど」
「うん」
「自分が着るってなったら、レースは少なめの方がいいかも」
「うんうん」

 ロリータとはいかない程の、レースが袖口にあしらわれた服の写真を指差す。カジュアルとロリータの間みたいな。よく分かんないけど。

「これ?」
「うん、こんな感じがいいかな」
「いいじゃん。とりあえずこの系統でいって、また気分が変わったら考え直せばいいよ。自分に正直に、ね」
「うん。ありがとう」

 その後は僕の希望で朝川さんファッションショーをやってもらった。お気に入りの服を着てもらって僕が写真を撮る。さっきと逆な感じ。休日だからメイクばっちり、睫毛の束感も素敵だから服装にとても合う。

「可愛い」
「ありがと」

 ちょっとはにかんで朝川さんが僕の横に座った。僕が朝川さんの瞳を覗くと、目を丸くさせて見つめ返された。

「顔に何か付いてる?」
「ううん、睫毛の束の作り方上手だなと思って」
「良いでしょ、こだわってるから」

 おすすめの美容系アカウントを教えてもらった。うわぁ、この人も可愛い。SNSの人たちはたいてい加工だから素顔は分からないらしいけど、別に知り合うわけじゃないから可愛いものは可愛いでいいと思う。

「アイラインの引き方綺麗」
「ね~。頼田君はメイク興味ある?」
「ある」

 流れている動画を夢中で観ていたら、横でカチャカチャ音がした。朝川さんがメイクポーチから取り出す音だった。

「え、まさか」
「まさかです」

 にんまり笑った朝川さんは本当に綺麗だった。僕はあまりの圧に恐れ慄いた。