「ねぇ、もしかして朝川さんと仲良い?」

 ある日登校したところ、廊下でそんな声をかけられた。声の主を確認しても、記憶の中にはない。一年の教室の前にいるのでおそらく同学年だろう。きっと離れたクラスの人だ。

「話したりはしますけど」

 万が一先輩だったらいけないので敬語で返す。それが彼女を不機嫌にさせてしまった。

「何、朝川さんとは話すのに、私とは話したくないの?」
「いや、そんなことは……もし年上だったら悪いと思って」
「私、一年、頼田君と同じ」
「ごめん。朝川さんに用事? 何かあるなら伝えておくけど」

 そう提案したら、彼女は首を振って走って行ってしまった。それをぽかんと見送る。

 名前も聞けなかった。たいした用事じゃなければいいけど。

 教室に行くと朝川さんがいたので、まっすぐそちらに向かう。

「おはよう。さっき朝川さんのこと聞いてきた女子がいたよ。用事があるのかと思ったんだけど、何も言わずにいなくなっちゃったんだ、ごめん」

「そうなの。じゃあ、気にしなくていいよ」
「うん」

 なんとなく、言い方がそっけなく感じた。もしかして、仲が良くない子だったのかな。

 いまだに学校での朝川さんのことをよく知らない。どんな友だちがいるのか、教室にいない時はどうしているのか、そういうことを聞くのはなんだか憚られる。

 距離感って難しい。

──男女ってなんだろう。

 性別の違いは理解している。小さい頃はそれも関係なく遊べていたのに、大きくなるにつれその差は大きくなっていく。

 結婚するのは男女で、友だちは同性。でも、そこから抜け出したっていいと思う。少なくとも、非難されることではない。

 異性間での友情は有り得ないという人もいるけれども、いても許される世界であってほしい。

 大人になったらそれも変わっていくのかな。大人になるって怖い。

 モヤモヤが消えないまま授業が始まる。テスト結果が返され、思ったよりやや良い点でほっとした。

 二年生になったら受験のことも考えないと。志望校は一年のうちに出すらしいけど、まだ全然決めてないや。

「なぁ、テストどうだった? 赤点?」
「取らないって」
「マジで? 赤点ってみんな一教科くらいは取るものじゃないの?」
「取らないよ」

 壮介が苦しそうに唸る。もしかして赤点だったのだろうか。怖くて聞けない。

「マジか~くっそ~~」

 この悔しがりようは怖い予想が当たっていそう。追試頑張れ。

 四時間目の壮介もテスト返しのところで面白い顔をしていたけど、僕に小声で赤点じゃなかったって笑いかけてきたので、とりあえず回避できたらしい。つまり、三時間目の点数が確定したってことだ。

「教室で食べるんだけど、真琴は?」
「うん、ここで食べる」

 朝川さんはというと、四時間目が終わるとすぐ廊下に出ていった。別に約束しているわけでもないので、壮介と食べることにした。そこに尚も加わって三人で食べる。

 今日はお弁当だ。うちは学食が充実しているのでお弁当を持ってきていない人もかなりいる。僕も普段はそうだけど、学食に飽きないよう週に一度はお弁当を持たせてくれる。