翌日、僕は黒のTシャツにグレーのハーフパンツで待ち合わせ場所に立っていた。本当は黒いハーフパンツも持っているけど、朝川さんの服に合わせたと誰かにツッコまれたら彼女に申し訳なくなっちゃうから。

 なんて僕は自意識過剰なんだろう。誰も僕のことに注目していないのに。もっとこう、何も気にせず好きなことに突き進んでいたい。

 ちなみに、待ち合わせは唄さんのお店がある駅。特別行きたいところがあるわけじゃないから、最初に行こうと言われた。

 意味もなく焦ってきた。唄さん接客中の方が楽かも。でも、朝川さんに唄さんを紹介したい気持ちもある。

「おはよ。おまたせ」
「全然待ってないよ」

 朝川さんは約束の五分前に来た。黒ベースに白と水色のレースだ。可愛い。

「今日の服も素敵だね。もしかして新しい服?」
「そう! よく分かったね。少し前に買ったの。今年のお年玉これで無くなっちゃった」
「まだ半年あるよ」
「そうなの、またバイトしなきゃ」

 それを聞いた僕の体が前のめりになった。

「バイトしてるんだ」
「うん、たまに」

 朝川さんが好きなブランドは高校生には高価だから不思議だったけど、やっぱり理由があったんだ。どんなバイトだろう。すごく気になる。

「どこでしてるの?」
「親戚がレストランやってるから、それの手伝いだよ」
「なるほど」

 だから、長期じゃなくても許されるのか。

「頼田君もしてる?」
「ううん、したいとは思うけど、まだ探してないよ」
「そっかあ。高校生だと接客業が探しやすいかも」
「そうなんだね。新しい服とか欲しいから、近々探してみる」

 たしかに、大学生と比べて高校生は選り好みできる程種類は無さそう。コンビニは高校生も募集していた気がする。あとは短期とか?

「ティッシュ配りとかできるかなあ。もらってもらえなかったらへこみそう」
「あはは、他にも沢山あるよ」

 バイト初心者の僕には怖い世界だ。見た目が強そうじゃないから、怖い人に絡まれても抵抗できなさそうだし。

「そう言っても、私も面接受けたことないからえらそうにアドバイスはできないんだけどね」
「働いたことあるだけで、僕よりずっと上だよ。よろしくお願いします、先生」
「優秀な生徒君だから、きっとすぐ先生を越しちゃうよ」
「有難いお言葉頂戴しました」

 朝川さんが朗らかに笑うたび、バッチリ決められた睫毛が揺れる。

 前に僕が初心者メイクをした時、アイシャドウとアイラインだけでかなりの時間がかかってしまった。朝川さんはこの完璧なメイクをどれだけの時間で終わらせるのだろう。

 服装だってそうだ。こういう服はTシャツをぱっと着るのとはわけが違う。おしゃれは根気が必要だ。