なにものでもないぼくたちへ

「ちょっと分かった気がします」
「よかったわ。といっても、私の方が状況的には困っているわけだけど」
「堂本さんは良い人ですか?」
「どうかしら。男も女も、本音は丁寧に隠すから」

 花瓶を見遣る。黄色と白の、爽やかな花たち。素敵な唄さんによく似合っている。知り合ったばかりの、友人でもない相手に花束を贈るということだから、唄さんはぼかしていたけれどもそういうことなのだろう。

 堂本さんに会ったことがないからなんとも言えないけれど、唄さんの笑顔が変わらずあることを祈ろう。

「そういえば、わざわざ来てくれたってことは何か用事があるんじゃない? ごめんね、私の話ばかりしちゃって」
「いえ、ここの雑貨が可愛いから何か買ってみたいなと思って」
「あらぁ、ありがとう! 自分用? それとも誰かにあげる?」

 一番目に「自分用」か聞いてくれるのは唄さんらしい気遣いだ。僕も付けてみたいなと思うものも中にはある。でも、今日はまた別の用事だから。

「あげるというか、あげたいと勝手に思っているだけで」
「あら、あらぁ!」

 唄さんの顔が一段と明るくなる。途端、僕の顔も熱くなった。

「いや、全然そういう人じゃなくて。お世話になっているから、好きそうなものを買いたいなと」
「うんうん、なるほどね。もし可能だったら、その人と一緒に選ぶのはどう? 好みを知っていたら事前に買って渡すのも有りだけど」

「一緒に……はハードルが高い、けど、そうですよね。身に着けるもので好みじゃないもの渡されたら困りますよね」
「ふふ。仲の良い子からもらったものなら何でも嬉しいと思うけど、それが好みのものならなお良しって感じね」

 なお良しか。なら、そうした方がいいかも。

「ええと、じゃあ、明日遊ぶことになっているので、誘えたらここに誘ってみます」

「明日!? わぁ、素敵! 午前中はネイルの予約が入っているから、できたら午後がいいわ。もしネイル中でも、土日はヘルプでバイトの子が来るしその子でも対応できるからね」

「分かりました。誘えたらなので、来なかったら無理だったんだなって思ってください」
「うん。応援してる」

 応援の内容には目を瞑りつつ、雑貨を一通り眺めてからお店を出た。

 帰り道、僕は考えていた。

 唄さんの言う通り、好みを知らないまま選ぶのはリスクがある。仲の良い子からもらったら好みじゃなくても嬉しいって言っても、どうせなら良いと思ってもらえるものを渡したい。

 あと、今さらだけど、仲が良いと思われているかもはっきり言って自信が無い。なにせ、二人で遊びに行くくらいの女友だちが出来たことがないので。

 だって、いくら僕が男らしくないとしても、ほいほい異性の人間に付いてきてくれる人はなかなかいないと思う。同級生だとしても警戒される。

 ということは、少なくともただの同級生よりは近い距離にいるのだろうか。

 それなら嬉しい。

 僕を引っ張り上げてくれただけでなく、友だち認識してくれているなら。

 友だち。友だちかぁ、良い響き。友だちは大勢ではなくとも、ある程度はいたと思う。でも、なんだか朝川さんは不思議な友だちだ。

 さっき見た中では、ピンキーリングとブレスレットがよかった。ネイルチップもあったけど、朝川さんネイルに興味あるかな。