「ねえ、期末終わったら遊ばない?」
間もなく期末テストという頃、朝川さんが僕にそう言った。テスト前なこともあって、二人で遊ぶのは久しぶりだ。
「いいね。ちょうど勉強に飽きてきたとこ」
「やった」
僕はすぐ頷いた。
浅川さんが喜びながらご飯を口に入れる。マスクが無い彼女の素顔にも慣れた。スッピンだと思っていたけれど、リップは塗っているみたい。素顔もリップだけも、バッチリメイクも全部可愛らしい。
僕も可愛いとは言われるけれど、男子にしてはって頭に付いていそう。これも、僕が勝手に女子より男子の方が可愛くないという偏見があるからかもしれない。
スマートフォンの画面を鏡代わりにして顔を見つめる。もちろん完全スッピン。保湿には気を使っているけど、昨日ニキビが出来てしまった。
そういえば最近、男子でもメイクをしている人が増えたと聞く。その割に、地元でメイクをしているだろう男子には出会ったことがない。そういう場所の意見を声高に伝えているのではないかと疑ってしまう。
それを鵜呑みにして親に話して軽蔑されたらどうする。
いや、僕の両親はとても優しい人たちだ。そんなことは言わないだろう。でも、心の底では距離を置かれるかもしれない。腫れ物みたいに扱うかもしれない。
唄さんのように女性になりたいと思われて悲しませるかも。
ああ、違う。唄さんが駄目なわけじゃない。彼女は誠実で、とても素敵な人だ。僕だってマイノリティに属する欲求を持っているのに、彼女を特別視するのはおかしい。
考えすぎて頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
とにかく、人は一人一人違う。それだけは忘れてはいけない。
ただ、ちょっと後ろめたいと思う心があるだけで。今まで大切にされてきたからこそ、自分自身で何かを変えることが怖いんだ。
子どもだなぁ。
「考えごと?」
「うーん、うん。テストのこと」
「心配だよね、今回範囲多いし。あ、ねえ、よかったら図書館かどこかで勉強する? 遊びじゃないけど」
「やる」
明後日からテストなので、さっそく今日一緒に勉強することになった。場所は図書室にしようと思っていたら、部活禁止かつ学校に残るのも禁止だったことを思い出した。なので、近くの図書館へ。
帰りのホームルームが終わり立ち上がると、朝川さんはもう廊下に出ていた。急ぎ足で後を追う。彼女は後ろを振り返らず、まっすぐ昇降口へ向かっている。黒いマスクで彼女の表情は窺えない。
朝川さんが上履きを脱いだところで追いついた。笑いかけてみると、少し周りを気にして目を細めた。
「行こう」
素っ気ないながらも一緒に歩く許可を得られて嬉しくなってしまい、横を歩いて校舎を出た。やっぱりまだ早歩きだ。
「ねえ、頼田君って結構人気あるんだよ」
校門を出て角を曲がったところで、ふとそんなことを言われた。思いがけない言葉に目を丸くさせる。
「そ、そうなの?」
「そうなの。だから、私がいたらあれかなって」
「万が一、僕がそうだったとしても、朝川さんと一緒にいちゃ駄目ってことにはならないよ」
すると、朝川さんがマスクをずらして口角を少し上げて言った。
「なら、私が誰かに頼田君に近寄らないでっていじめられたら、守ってくれる?」
「うん。もちろん」
今度は朝川さんが僕みたいな顔をした。
「はは、可愛い」
今度はそっぽを向かれてしまった。
「そういうの、気軽に言わない方がいい」
「そっか、ごめん。可愛かったからつい」
失言だったかもしれない。距離、近いかな。もっと線を引いた方がいいだろうか。
初めて出来た何でも話せる友だちだから、つい気が緩んでしまった。
「許すけど。他の子だったら勘違いするから」
「うん。ごめん」
神妙に頭を下げたらやっと笑ってくれた。よかった。朝川さんと話せなくなったら、どうしていいか分からなくなる。
間もなく期末テストという頃、朝川さんが僕にそう言った。テスト前なこともあって、二人で遊ぶのは久しぶりだ。
「いいね。ちょうど勉強に飽きてきたとこ」
「やった」
僕はすぐ頷いた。
浅川さんが喜びながらご飯を口に入れる。マスクが無い彼女の素顔にも慣れた。スッピンだと思っていたけれど、リップは塗っているみたい。素顔もリップだけも、バッチリメイクも全部可愛らしい。
僕も可愛いとは言われるけれど、男子にしてはって頭に付いていそう。これも、僕が勝手に女子より男子の方が可愛くないという偏見があるからかもしれない。
スマートフォンの画面を鏡代わりにして顔を見つめる。もちろん完全スッピン。保湿には気を使っているけど、昨日ニキビが出来てしまった。
そういえば最近、男子でもメイクをしている人が増えたと聞く。その割に、地元でメイクをしているだろう男子には出会ったことがない。そういう場所の意見を声高に伝えているのではないかと疑ってしまう。
それを鵜呑みにして親に話して軽蔑されたらどうする。
いや、僕の両親はとても優しい人たちだ。そんなことは言わないだろう。でも、心の底では距離を置かれるかもしれない。腫れ物みたいに扱うかもしれない。
唄さんのように女性になりたいと思われて悲しませるかも。
ああ、違う。唄さんが駄目なわけじゃない。彼女は誠実で、とても素敵な人だ。僕だってマイノリティに属する欲求を持っているのに、彼女を特別視するのはおかしい。
考えすぎて頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
とにかく、人は一人一人違う。それだけは忘れてはいけない。
ただ、ちょっと後ろめたいと思う心があるだけで。今まで大切にされてきたからこそ、自分自身で何かを変えることが怖いんだ。
子どもだなぁ。
「考えごと?」
「うーん、うん。テストのこと」
「心配だよね、今回範囲多いし。あ、ねえ、よかったら図書館かどこかで勉強する? 遊びじゃないけど」
「やる」
明後日からテストなので、さっそく今日一緒に勉強することになった。場所は図書室にしようと思っていたら、部活禁止かつ学校に残るのも禁止だったことを思い出した。なので、近くの図書館へ。
帰りのホームルームが終わり立ち上がると、朝川さんはもう廊下に出ていた。急ぎ足で後を追う。彼女は後ろを振り返らず、まっすぐ昇降口へ向かっている。黒いマスクで彼女の表情は窺えない。
朝川さんが上履きを脱いだところで追いついた。笑いかけてみると、少し周りを気にして目を細めた。
「行こう」
素っ気ないながらも一緒に歩く許可を得られて嬉しくなってしまい、横を歩いて校舎を出た。やっぱりまだ早歩きだ。
「ねえ、頼田君って結構人気あるんだよ」
校門を出て角を曲がったところで、ふとそんなことを言われた。思いがけない言葉に目を丸くさせる。
「そ、そうなの?」
「そうなの。だから、私がいたらあれかなって」
「万が一、僕がそうだったとしても、朝川さんと一緒にいちゃ駄目ってことにはならないよ」
すると、朝川さんがマスクをずらして口角を少し上げて言った。
「なら、私が誰かに頼田君に近寄らないでっていじめられたら、守ってくれる?」
「うん。もちろん」
今度は朝川さんが僕みたいな顔をした。
「はは、可愛い」
今度はそっぽを向かれてしまった。
「そういうの、気軽に言わない方がいい」
「そっか、ごめん。可愛かったからつい」
失言だったかもしれない。距離、近いかな。もっと線を引いた方がいいだろうか。
初めて出来た何でも話せる友だちだから、つい気が緩んでしまった。
「許すけど。他の子だったら勘違いするから」
「うん。ごめん」
神妙に頭を下げたらやっと笑ってくれた。よかった。朝川さんと話せなくなったら、どうしていいか分からなくなる。


