日陰妃の後宮食堂〜砂塵の後宮で食堂、はじめます〜

「勿体ない?」
「はい……こんなに美味しいのですから、その……」

 侍女は言葉に詰まっているが、ティアは彼女が何を言いたいのかをちゃんと理解していた。

「あれでしょ、もっと皆に振る舞うべきだって事?」
「そ、そうです! 私だけティア様の料理を味わえるのを独り占めするのもどうかと思ったので……」

 ティアはこれまで家族に料理を振る舞った事は何度もあるが、それは大体4.5人くらいの規模。それ以上の大人数へ振る舞った事は無い。

「なるほどねぇ。初めてそんな事言われたよ」
「そうでしたか……なんだかすみません」
「謝らなくていいよ。悪い事言った訳じゃないんだからさ」
「ありがとうございます……あ、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 ティアが椅子から立ち上がり、食べ終えた食事をトレイごと手に取り厨房へ向かおうとすると、侍女も後ろから付いてくる。建物の外は涼やかな風が吹いて砂塵が少しだけ巻き上がりつつあった。
 厨房に2人が到着し、ドアを開けると中にいた作業中の料理人が一斉にティアを見た。

「ティア様!」 

 ティアを真っ直ぐに見つめる彼らの目には尊敬の念が籠もっている。先程とは全く違う彼らの様子に、ティアはどうしたの!? と目を丸くさせ少し後ずさりした。

「俺ら、ティア様の事何にも知りませんでした! すみませんでした!」

 横に列をなして頭を下げる彼らを、ティアは何事かと同様しながら見ているだけだ。

「ファラオからの寵愛からは遠い存在の日陰妃だと……何の取り柄もない存在だと思っていました」
「料理が出来るなんて……」

 料理人が口々に言葉を発するので、ティアは手で何かを押さえるようなジェスチャーをしながら、まあまあ……と苦し紛れの笑みを浮かべている。
 そんな中、ひとりの純朴そうな中年くらいの料理人が口を開いた。

「そこで俺思ったんですけど、ティア様はファラオに料理振る舞ってたりしないんですか!?」