ティアが自室に戻ってきた。自室で待機していた侍女は慌てて立ち上がり、ティアが持っている食事をトレイごと代わりに持とうとする。

「いいよ、座って。お腹空いてるでしょうし」
「す、すみません……」
「はい、どうぞ。パン硬いからちぎってスープにつけて食べるといいよ」

　高貴な者が使う用にしては簡素な机についた侍女は、ティアが置いた食事に目を通すと、言われたとおりにパンを一口分手でちぎってスープに浸す。

「いただきます……」

　侍女がスープが染み込んだパンを口に入れたのを、彼女の前に座ったティアは見届ける。
　
「！　おいしい！　豆の味わいがスープに溶け込んでいます……！」

　顔をほころばせて美味である事を全身で伝える侍女を、ティアはふふっと微笑みながら見つめている。
　この食事を楽しんだり美味を感じた顔を見るのが、ティアの好きな事でもあるのだ。

「へへ、作った甲斐があったよ」
「本当に美味しいです！　あの、毎日ティア様のお作りする料理が食べたいくらいに……！」
「え、そんなに？」

　侍女がそこまで派手なリアクションをするとは、ティアからすれば予想外の事だったようだ。

「あの、ティア様。なんだか勿体ない気がするんです。だってこんなに美味しいスープを食べられるのが、一度きりだなんて」