ティアがあまりにもてきぱき調理に取り掛かっているので料理人達はぽかんと口を開けたまま、突っ立ってティアを凝視している。

「豆は洗ったら水の中につけて……」

 茶色い壺の中にパラパラと洗った豆を入れ、その中へ水を注ぐ。豆が隠れるくらいまで水を注ぎ終えると、ティアが次に掴んだのはタマネギだ。

「微塵切りがいいよね……」

 ティアがタマネギの皮をぺりぺりとめくり、ナイフを掴みタマネギを切ろうとすると、さすがにまずいと思ったのか、慌てた料理人がティアの元に飛んできた。

「ティア様! 危のうございます!」
「何かあってはいけませぬ、せめて切るのは私どもにおまかせくださいませ!」
「?」

 料理人達が必死に引き止めるのは、ティアが包丁で手を怪我するような事はならないという理由なのだが、ティアにはその事は伝わっていないのか、へ? と素っ頓狂な顔つきを浮かべている。

「? 心配してくれるの?」
「は、はい。ティア様は妃でございますから」
「そう。でも料理は得意だから安心していいよ」
「へ、は」

 おどおどする料理人達をよそに、ティアはとんとんとナイフを動かす。そしてタマネギはあっという間に微塵切りになった。

「おお……ティア様、慣れた手つきでタマネギを微塵切りにされた……」

 料理人は予想外なティアのナイフさばきに、ただただ感服の表情を浮かべていた。