「すみません、何かスープとかありませんか?」

 厨房に到着したティアはすぐに、そばにいた30代くらいの男性料理人に話しかける。

「ティア様! すみません、あいにく今は……」

 ティアの突然の訪問に驚く彼。そんな彼を遠くから見ていた先輩格の料理人達は、ひそひそと話をはじめる。

「あれが噂の日陰妃様か」
「ファラオの寵愛から最も離れた存在だから日陰妃なんだと。神官のお偉いさんが言ってたな」
「ファラオの寵愛を得られていないという事は……何の取り柄もない妃なんだろう」

 このひそひそ話、ティアには幸運にも聞こえていない。男性料理人からの言葉を受けた彼女は、それなら食材は無いですか? と質問する。

「食材ならございます。では早速……」
「ああ、皆は休んでいていいですよ。私が作るから」
「え?」

 ティアの声に男性料理人は口をあんぐりと開け、奥にいた他の料理人達はひそひそ話を止めた。
 
「ティア様、お料理が……」
「出来ますよ? 実家でよくやってたんで。えっと、食糧庫はここだっけね」

 侍女にも休んでいていいと声をかけたティアは、迷う事なく食糧庫からそら豆を取り出した。

「ん、豆のスープ作るならこれと水と調味料があればいいかな。他に何か入れたい所だけど……」

 すると食糧庫にあるタマネギと目が合う。

「タマネギも刻んで入れよう。よし。材料はこんなもんかな」