ティアは5年前に即位した若きファラオ・ウナセトに仕える高官の娘。実家にいた時は両親の教育方針もありパンを作ったり料理をしたり狩猟に赴いたりと、令嬢の割には案外自由に育った。しかし去年、ある事件が起こる。

 ――正妃様までもがお亡くなりになってしまったようだ、ティア。
 ――そうなの? お父様……

 流行り病により、ウナセトの側室5人と正妃が相次いで亡くなったのである。ティアとその両親、ウナセトは幸運にも発症しなかったが、流行り病は確実にエジプト中に大打撃をもたらした。

 この流行り病をきっかけに宰相及び神官達はウナセトに新たな側室を補充する事を進言。ウナセトもそれを認めた事により高貴な身分の娘達にこうお達しが出た。

 ――ファラオの側室を10人程追加したい。我こそはと思う者は後宮に来るように。

 ティア自体はそこまで乗り気ではなかったが、娘に良い嫁ぎ先をと考えていた両親により、後宮入りが決定。半年前にこの後宮に足を踏み入れたのだった。
 
(後宮入りしたの、半年前かぁ。もうそんなに時間が経つんだね。皆元気にしてるかなぁ)

 後宮入りしたティアだが、まだウナセトと閨を共にした事はおろか、会話した事すらない。いつの間にかウナセトからの寵愛からは最も遠い存在となったティアは神官などからこう呼ばれるようになった。

「日陰妃」と。