ここはエジプト。偉大なるナイル川のほとりにある首都は多くの人々が行き交い、今日も太陽のような明るさのように賑わっている。
 そんな首都から南へ少し離れた場所にある後宮に暇を持て余した彼女はいた。

「はあ〜暇。暇すぎる!」

 日陰になる北側の一室にある長い椅子の上で身体を投げ出すようにして座っているのは、ティア。ストレート気味の黒い髪に大きな茶色い瞳を持つ。ファラオに仕える高官の娘である彼女はファラオの側室のひとりだ。

「ティア様。よろしければ機織りの仕事などは……」

 見かねたティア付きの侍女がティアに声をかける。するとティアの肩に止まっていたツバメ・ウジェがティアの肩から飛び立ち、侍女の前に近寄ってピピ! と鳴く。

「機織りの機械壊れたから修理中じゃなかったっけ?」
「は! そういえばそうでした。ご無礼を!」

 側室は日中、機織りなどの仕事に従事しているのだがあいにく機械が故障し、現在は修理中である。
 侍女はその事を忘れていたようだ。頭をペコペコと下げて謝る侍女へ、ティアはそこまで謝らなくていいよと告げた。

「誰だってそんな時はあるよ」
「う、お心遣いありがとうございます……」
「ふう。それにしてもこんなに暇な時が来るなんて思わなかったよ……やる事ないし、ゲームも飽きちゃったしなぁ……」