退院から数ヶ月が経ち、葵は新たな日々を歩み始めていた。

高校は通信制の高校を卒業し、地域の子ども支援センターでボランティアを始めた。そこでは、家庭に問題を抱える子どもたちや、不登校の子たちが集まっていた。

最初の頃、葵は戸惑いを隠せなかった。子どもたちの中には、彼女の過去を知っている者もいた。「あの入院してた子でしょ?」という好奇の目や、時には冷たい視線を向けられることもあった。それでも葵は諦めなかった。自分にできることを、ひとつずつ見つけていこうと決めていた。

転機が訪れたのは、ボランティアを始めて三ヶ月目のことだった。センターに通ってくる小学生の真樹という女の子が、ずっと心を閉ざしたままでいた。親の離婚で荒れていて、誰とも話そうとしない。スタッフも手を焼いていた。

ある雨の日、真樹がひとり隅で泣いているのを見つけた葵は、そっと彼女の隣に座った。

「つらいね」

葵はただそう言って、一緒に座り続けた。何も言わず、ただそばにいるだけだった。

「なんで……なんで大人ってみんな嘘つくの?」
やがて真樹がぽつりと呟いた。

「嘘をつくのは、きっと怖いからだと思う。本当のことを言うのって、勇気がいるから」
葵は自分の手を見つめながら答えた。

「お姉ちゃんも嘘ついたことある?」

「うん、たくさん。自分のことも、周りの人のことも、ずっと嘘ばかりついていた。でもね、本当のことを言える人に出会えたの。そしたら、少しずつ楽になった」

真樹は葵の顔を見上げた。そこには作り物ではない、本当の優しさがあった。

それから真樹は少しずつ心を開くようになり、他の子どもたちとも話すようになった。そんな変化を見て、他のスタッフたちも葵の存在の大きさに気付いていった。



ある日、別の少女が葵にぽつりと尋ねる。
「どうして、そんなに優しいの?」

葵は答えた。
「昔の私も、誰かに助けてもらったからだよ。……だから今度は、私が誰かを支える番なんだ」

その言葉には、確かな意思があった。



 一方、佳人はそんな葵の活動を陰ながら支えていた。彼は精神科医として、病院に勤務するかたわら、地域のスクールカウンセリングや支援活動にも携わっていた。

葵がセンターで困ったとき、佳人はさりげなく助言をくれた。専門的な知識を分かりやすく教えてくれたり、難しいケースについて一緒に考えてくれたりした。二人は自然と良いパートナーシップを築いていった。

センターの他のスタッフたちも、最初は葵の若さや経験の少なさを心配していたが、彼女の真摯な姿勢と、子どもたちとの関わり方を見て、次第に信頼を寄せるようになった。特に、葵が子どもたちの心の奥底にある痛みを理解し、寄り添う姿は、ベテランのスタッフたちでさえ学ぶところが多かった。

「君、ほんと変わったな」
ある夕暮れ、二人でセンターの片付けを終えた帰り道。佳人は言った。

「……そうかな?」
葵は照れくさそうに笑った。

「最初は、目も合わせられなかったのに。今じゃ俺よりもしっかりしてる。カイン……じゃなくて、俺としても見直したよ」

葵はふと立ち止まり、夕陽に染まる佳人の横顔を見つめた。
その面影には、確かにカインが宿っていた。けれど、それ以上に"佳人"というひとりの人間としての温かさがそこにあった。

「佳人さん、私ね……」
「うん?」

「夢だった世界は、本当だったって今でも思ってる。でも今は、こっちの世界でやるべきことがある。あなたと一緒に……生きてみたい」

佳人は静かに頷いた。
「そう言ってくれて、嬉しいよ。俺も、君の歩む道を一緒に見ていたい」

それは恋の始まりというには、あまりに穏やかで、深い絆の確認だった。



 数年後、葵は子どもたちの心のケアをするNPOを設立した。名前は──

「灯の家」

小さな古民家を改装した施設は、いつも子どもたちの笑い声で満ちていた。葵は代表として、佳人は顧問医師として関わっていた。真樹も今では中学生になり、時々後輩たちの世話を焼きに顔を出す。

スタッフは葵を含めて5人。みんな何かしらの困難を乗り越えてきた人たちだった。元不登校だった大学生、シングルマザーの保育士、退職後に心理学を学び直したおじいさん、そして精神的な病気を患いながらも回復した青年。それぞれが自分の経験を活かして、子どもたちと向き合っていた。

「灯の家」では、勉強を教えるだけでなく、料理をしたり、ゲームをしたり、時には一緒に泣いたりもした。何より大切にしていたのは、「ここにいてもいいんだ」という安心感を子どもたちに感じてもらうことだった。

ある日、新しく来た中学生の男の子が葵に言った。
「ここって、本当の家みたい」

葵の目に涙が浮かんだ。かつて自分が求めていた「居場所」を、今度は自分が作り出すことができている。その実感が、彼女の心を静かに満たしていた。

夜、二人きりになったとき、佳人が言った。
「君が笑ってるのを見ると、俺まで幸せになる」

「私も。佳人さんがいてくれるから、今の私がいる」

二人の間には、もはや言葉にする必要のない深い信頼があった。それは恋人とも友人とも違う、人生を共に歩むパートナーとしての絆だった。



 カインの魂も、あの異世界で共に戦った仲間たちも、きっと今も彼女の中に生きている。

夜、一人になったとき、葵は時々あの世界のことを思い出す。エルフの森で見た美しい夜空、仲間たちと分かち合った冒険の日々、そしてカインと過ごした穏やかな時間。

それらは決して失われたものではなく、今の彼女を支える大切な宝物となっていた。あの世界で学んだ勇気、優しさ、そして他者を信じる心。すべてが今の活動に活かされている。

「灯の家」に通う子どもたちは、葵の中にある不思議な強さと優しさを感じ取っていた。彼女が放つ光は、まるで本当の灯火のように、迷子になった心を照らしていた。

彼女の生きる"現実"こそが、今や誰かの希望になっていた。

そして葵は知っていた。自分が歩んでいるこの道こそが、カインとしての自分と葵としての自分、両方が望んだ道なのだということを。

春の夕暮れ、桜の花びらが舞い散る中、葵は「灯の家」の庭で子どもたちと遊んでいた。佳人もそこにいて、みんなでかくれんぼをしている。

ふと空を見上げると、夕焼けの中に小さな星がひとつ、きらりと光った。

「みんな、見てる?」

葵は心の中で、あの世界の仲間たちに問いかけた。

風が頬を撫でていく。まるで「よくやってるよ」と言ってくれているみたいだった。

 葵の新しい物語は、まだ始まったばかりだった。
数ヶ月の間に、葵は新たな日々を精力的に歩み始めていた。通信制高校を無事に卒業し、その後、地域の子ども支援センターでボランティアを始めることに決めた。そこには家庭に問題を抱える子どもたちや不登校の子どもたちが集まり、彼女の活動は彼らの心に小さな光を灯すこととなった。

葵は子どもたちと過ごす時間が何よりも好きだった。彼女が声をかけると、恥ずかしそうに微笑む子どもたちの表情は、かつての自分を思い出させる。その日、幼い少女がふと葵に尋ねた。
「どうして、そんなに優しいの?」

葵は一瞬考え、静かに答えた。
「昔の私も、誰かに助けてもらったからということもあるし、それに……今度は私が誰かを支える番なんだ。」
彼女の言葉はゆっくりと、しかし確かな意思を持って語られ、少女の目にどこかの希望の光が煌めくのを感じる。

その日々の中で、彼女を陰から支える存在があった。佳人、彼は精神科医として病院に勤務しながら、地域のスクールカウンセリングや支援活動にも熱心に取り組んでいた。葵の成長を喜びつつ、彼は静かに彼女を見守り続けていた。

ある夕暮れ、二人でセンターの片付けを終え、帰り道を歩いていた時、佳人が言った。「君、ほんと変わったな」

葵は照れくさそうに笑った。
「……そうかな?」

「最初は、目も合わせられなかったのに。今じゃ、俺よりもしっかりしてる。カイン……じゃなくて、俺としても見直したよ」
と佳人はまっすぐも、少し照れた様子で言った。

葵はふと立ち止まり、夕陽に染まる佳人の横顔を見つめた。そこにはカインの面影が確かに宿っていた。しかしそれ以上に、彼自身としての温かさが溢れていた。彼女の胸が高鳴る。

「佳人さん、私ね……」

「うん?」
佳人が優しく答えた。

「夢だった世界は、本当だったって、今でも思ってる。でも今は、こっちの世界でやるべきことがある。あなたと一緒に……生きてみたい」
葵は、心からの気持ちを伝えた。

佳人は静かに頷いた。
「そう言ってくれて、嬉しいよ。俺も、君の歩む道を一緒に見ていたい。」

これはただの恋の始まりではなく、二人の心が深く繋がる瞬間だった。お互いを見つめ合い、互いに寄り添う存在になれたこと、そして新たな一歩を踏み出す決意を告げ合った。

数年後、葵の努力は実を結んだ。彼女は子どもたちの心のケアをするNPOを設立した。名前は──「(ともしび)の家」ここには、かつての葵のように、居場所を探す子どもたちが集い、彼女の言葉に耳を傾け、心の痛みを共に分かち合っていた。

子どもたちを支えることは決して楽な道ではなかった。しかし葵は、彼女の中に宿るカインの魂や、あの異世界で共に戦った仲間たちの思いを胸に、困難に立ち向かっていた。それは単なる思い出の中ではなく、彼女を支える大切な存在として生き続けていた。

葵の生きる“現実”こそが、今や誰かの希望になっていた。その小さな家には、多くの光が宿り、未来への道を照らしていた。子どもたちの笑顔は葵の心に温かさを与え、彼女が歩む道が間違っていないことを証明していた。子どもたちの中には、最初は心を閉ざしていた子もいたが、葵の優しい言葉や行動に少しずつ心を開いていった。

ある日の活動中、葵は一人の男の子が涙を流しながら小さな声で呟くのを聞いた。
「僕、もうダメかもしれない。」

その言葉に葵は胸が締め付けられるような思いを抱え、すぐさま彼の元に駆け寄った。「どうしたの?何があったのかな?」彼女は柔らかい声で問いかけた。

男の子は、しばらく言葉を詰まらせていたが、葵の寄り添いに勇気を出して話し始めた。
「学校で、友達ができなくて……みんなが楽しそうにしてる中、僕だけ取り残されてる気がするんだ。」

葵は彼の目を見つめ、優しい微笑みを浮かべた。「それは、とても辛い気持ちだね。でもね、一人って思う時間は、誰にでもあるんだよ。私も昔、そう感じてた。でも、少しずつ、自分が大事に思える何かを見つけて、そこから友達ができたの。」

男の子は、何かを思い出したかのように顔を輝かせた。「どうやって?」

「時間をかけて、自分の好きなことを探すのを手伝うよ。それがあると、一緒に楽しめる友達とも出会えるかもしれない。でも、まずはその気持ちを大事にしてね。」
葵は彼の手に自分の手を重ね、温もりを伝えた。

その瞬間、男の子の顔から少しずつ不安が消え、心の中に一筋の光が差し込んだかのようだった。

そんな日々の中で、葵は自己の成長を実感した。彼女は自らの心の傷を背負いながらも、他人の痛みに寄り添い、共に歩む道を選んだ。そこには以前の自分が望んだ「居場所」が確かに存在していた。

佳人との関係も深まっていた。お互いに信頼し、支え合う中で、葵は時折カインの過去に触れることもあった。佳人は、その都度、静かに聞き、彼女がどんな時も自分自身を大切にすることを忘れないように優しく導いてくれた。

「灯の家」に通う子どもたちが安心して過ごせる場所を作るため、葵は日々全力で取り組み続けた。その姿に、地域の人々も少しずつ協力してくれるようになった。周囲の大人たちも賛同し、支援の手を差し伸べてくれるようになったのである。

そして、数年の月日が経ち、葵の「灯の家」は地域に根付いた存在となった。多くの子どもたちがここに集い、新たな夢や希望を持つようになっていた。葵は、その成長を見守りながら、彼らが自分の足で立ち、自信を持って未来へと進んでいく姿を見て、心からの喜びを感じていた。

ある日の帰り道、佳人が言った。
「君は本当に多くの人に希望を与えているね。」

葵は微笑んで言った。
「みんなが心の中に灯を持っているはずだから、私たちがその灯を一緒に育てていけたら素敵だと思うの。」

佳人は彼女の言葉に同意し、静かに腕を振る。そして、二人は手を繋ぎ、未来へ向けて一緒に歩み続けることを決意した。

彼女の生きる「現実」は、かつての夢とは違うが、何よりも充実したものに変わっていた。何度も挫けそうになりながらも、葵は自らの選択を信じ、彼女のまわりには温かい光が満ち溢れていた。

「灯の家」はただの支援施設ではなく、コミュニティの一部として大きく成長していた。地域の人々との協力が広がり、ボランティアや寄付も増え、葵のビジョンが現実のものとなるにつれて、心のたすきが架けられたような感覚を得ていた。

ある日、特別なイベントとして地域交流会を開催することに決めた。子どもたちやその保護者、地域の大人たちを招待し、交流や楽しみながら絆を深める日としたいと思ったのだ。準備を進める中で、葵はドキドキとした思いを抱きながらも、参加者たちが楽しみ、心を開ける場を作るために全力を尽くした。

当日、会場は大勢の笑い声や歓声に包まれ、葵の心も温かくなった。子どもたちは楽しそうに遊び、彼らの笑顔は彼女にとって何よりの報酬となった。地域の大人たちも協力し、様々なアクティビティを用意してくれた。「灯の家」が地域に根付いてきた証を感じる瞬間だった。

夕方になり、イベントは盛況のうちに終わり、参加者たちが帰る際、葵は一人ひとりが口にする「楽しかった」「また来たい」という言葉に感激した。彼女は心の底から「この場所が必要とされている」と実感した。

家に帰る途中、ふとした瞬間に、自分の肩を優しい手が支える感覚を覚えた。振り向くと、それは佳人だった。

「今日は本当に素晴らしかったね。君の頑張りがみんなに伝わったよ」
と彼は微笑み、葵の手を引いて歩き出した。

「ありがとう。あなたのおかげでもあるよ。ここまで来られたのは、あなたがいつも支えてくれたからだから」
と、葵は素直にそう言えた。佳人はそっと頷き、彼女の言葉を受け止めてくれるように見えた。

「これからも、もっと多くの子どもたちがこの家で希望を持てるよう、共に歩いていこう」
と彼が言うと、葵も力強く同意した。
「うん、一緒に前に進もう。私たちができることを、精一杯やり続けよう。」

彼らは互いに目を見つめ合い、未来の可能性に胸が高鳴る。周りの世界は、かつての夢や冒険とは違った形で、彼らにとっての「現実」を描いていくこととなった。

数年後、さらに成長を続ける「灯の家」は、地域だけでなく多くの場所からも注目され、模範的な支援施設として評価されるようになった。葵は、子どもたちの力を引き出し、彼らの夢を育てる支援に全力を注いだ。その姿は多くの人々に感動を与え、また、彼女自身も多くの人との繋がりを持つようになり、より広がりのある人生を歩むことができた。

また、佳人との絆も育まれ、彼は葵の支えだけではなく、彼女の志からも多くの学びを得ていた。二人は、支え合いながら寄り添い、彼女が設立した「灯の家」を通じて共に歩む道を選んだ。

お互いを深く理解し、支え合って生きる中で、葵は自らの過去が今の自分にどのように影響を及ぼしているのかを感じることができた。過去の苦しみや孤独、そして救いの手を差し伸べられた経験が、今の葵を形成する重要な要素となっていた。彼女は自身の経験を忘れず、自らが支える子どもたちに対して心を込めて向き合うことで、真の理解者になっていったのだ。

「灯の家」に集まる子どもたちが笑顔を見せる姿は、葵の心に大きな喜びをもたらすと同時に、彼女自身の成長をも実感させていた。彼女はただの支援者ではなく、彼らと共に未来を築く仲間として存在するようになっていた。

ある日、葵はついに自身の体験を基にしたワークショップを開くことを決意した。「過去を生き抜いた私ができること」というテーマで、過去の経験を分かち合い、共に成長する機会を提供することができれば、子どもたちに新たな可能性を示せると考えた。

準備を進める中、彼女は心の中に不安を抱えていた。果たして、過去の痛みを話すことができるのか、そしてそれが他の子どもたちにどのような影響を与えるのか。何度も自問自答し、葛藤を抱えながらも、彼女は決意を新たにした。

そして、当日。参加者たちが集まり、静かな緊張感が会場を包んでいた。葵は自分の心を落ち着け、子どもたちの前に立った。彼らを見つめながら、静かに話し始めた。
「今日は私の物語をお話ししたいと思います。そして、私がどのようにして立ち直り、今の自分があるのか、皆さんと一緒に考えていけたら嬉しいです。」

ゆっくりと、自分の過去や家族との問題、精神的な苦悩、そしてそれを乗り越えた体験を語った。話す中で、時折言葉に詰まりながらも、葵は子どもたちが彼女の言葉に耳を傾け、真剣な表情で聞いているのが分かった。

「一人で抱え込まず、誰かに助けを求めることは、とても大事なことなんだ。私もあなたたちと同じ、ひとりじゃなかった。でも、どんな時でも大丈夫な場所があるって知ってほしい。」
葵は、自らの体験を通し、子どもたちが未来を選ぶ力を信じ、それを伝えることができた。

ワークショップが終わった後、多くの子どもたちから「ありがとう」という言葉が寄せられた。彼らの目には、いつもとは違う希望の光が宿っていた。その瞬間、葵は自分の選択が間違いではなかったことを確信した。

その後も、彼女は地域の人々の協力を得て、継続的にワークショップを開催し、参加者が自分の言葉を持ち、未来に希望を抱けるようなサポートを行った。また、佳人もその活動に積極的に参加し、心のケアの専門家として葵を支えてくれた。

数年が経ち、「灯の家」はさらに進化を遂げていった。新たなプログラムやイベントが増え、子どもたちやその家族だけでなく、地域全体に広がる支援の輪が形成されていた。葵は、自分が何を成し遂げられるのかを常に考え続け、そこで見つけた可能性に挑戦し、夢を叶えるための日々を送っていた。

そして、彼女の心の中では、カインの魂が静かに寄り添っているのを感じていた。自分の歩んできた過去、そしてこれから進む未来を、彼女は堂々と受け入れていた。カインの存在は葵の中で生き続け、彼女の決意と勇気を与えてきた。彼女が「灯の家」で子どもたちと関わる中で、どれだけ彼の教えや思いが影響を与えているかを実感することが増えていったのだ。

ある晩、葵は静かなシーンを思い描きながら日記をつけていた。「灯の家」に通う子どもたちの成長や新しい発見、そして彼らとの関係性をじっくりと振り返ることで、彼女は自身の人生にも新たな意味を見出していた。彼らが笑顔で自分のストーリーを語る姿は、葵にとっての大きな報酬であり、支えであった。

「灯の家」の取り組みは、他の地域や団体からも注目されるようになり、時折、メディアの取材を受けることもあった。葵は自身が経験した苦しみを語ることで、同じような問題に直面している子どもたちや家庭に寄り添うメッセージを広げる機会を持つことができた。

その中でも特に印象深かったのは、ある学校での講演会での出来事だった。葵は、学校の生徒たちに向けて「自分を大切にすること」の重要性を話し始めた。そこで彼女は、かつての自分を思い出しながら、どれほど恐れや不安と向き合ってきたかを語った。

「私も、誰かに助けが必要だと感じたことがある。一人になることが不安だったから、勇気を出して手を上げた。その時に出会った人たちが、私の人生の灯火になってくれたんだ。その経験を通して、私も今は誰かの灯火になりたいと思っている」

彼女の言葉は、学生たちに深く響いたようで、終わった後に多くの生徒が彼女に話しかけてきた。「もっと聞きたい」「どうしてそんなに強いの?」といった質問が寄せられ、葵は一人ひとりに向き合って答えた。彼女は、彼らのその瞳の奥には未来への可能性が秘められていることを感じ取るとともに、自らの過去と向き合う力を与える役割を果たしていると実感した。

佳人は、その時、葵の横に座って話を聞いていた。彼女が若い世代に影響を与えている姿に触発され、彼は言った。
「君の言葉は、多くの人に希望をもたらしている。子どもたちにとって、君が憧れの存在になっているんだよ。」

葵は照れ臭そうに微笑んだ。
「ありがとう。でも、これは私一人の力じゃないよ。みんなで作り上げてきたものだと思う。私たちが一緒にいるからこそ、ここまで来られたんだから。」

その瞬間、彼女は再び彼自身の存在の大きさを感じた。佳人との絆は、ただの愛情にとどまらず、彼女の志を共に支える力強いパートナーとなっていた。そして喪失感を抱えていた時の彼との出会いが、今の彼女を形作る重要なビジョンの一部だということを理解していた。

日々の生活の中で葵は、カインが教えてくれた
「誰かを助けることで、己の心も救われる」という教訓を胸に、支援を続けていく決意を新たにした。「灯の家」は、ただの施設ではなく、彼女自身の心の反映であり、彼女の使命そのものであった。

そうして葵は、自分自身もまた、子どもたちと共に成長し続けていることを実感し、未来を描く力をさらに強めていた。