まだ数十メートルしか進んでいないのに、放置されて伸び切った雑草の上に膝をついて倒れるようにしてうつ伏せに寝転がる。

…疲れた。どうせ家に帰ったって意味がないし、今日はここで夜を過ごすのもあり、か…。


「“…か。…いい。…私の…”」


そんな馬鹿なことをぼんやりと考えていると、どこからか歌声のような透き通った声がかすかに聞こえてきた。


むくっと体を起こして辺りを見渡すと、鉄橋下で動く人影を見つける。

いつもならこんなの気にも留めないけど、なぜかその歌声に引かれるようにして疲れているのも忘れフラフラと近寄っていた。

声の主は後ろを向いていて、長い黒髪と薄ピンク色のワンピースが風に踊ってふわふわと揺れている。


「“なんて名前をつけようか。君が…”」


もっと近くに行こうとしたことで、ザッと足音を立ててしまい、女の人がぱっと勢いよく振り向いてきた。

大きなぱっちりとした目力の強い瞳に、すーと滑らかな鼻筋、長いまつ毛に桜色のぷっくりとした唇。

側から見てもよく整った顔立ちをした女の人だと思った。


「わ…びっくりした…。って、すごい怪我。それ、どうしたの？」


小柄な女の人が俺に向かってトコトコと駆け寄ってくると、背伸びをしてそっと頰に手を伸ばしてきた。

あまりにも自然に触れるものだから、思わず驚き咄嗟にその手を振り払う。