いつかこの歌が、まだ名前のない君に届きますように

何も言えない大野に男子生徒は肩に手を回すと、廊下を歩いて行ってしまった。

最後にこちらを振り返ってきた大野の顔が助けを求めていたように感じたのは、気のせい…か?


「あーあ、あれはまたいじめられるね」

「…は?」


いつの間に隣にいたのか、同じクラスの爽やか王子様と有名な九条隼斗(くじょうはやと)がにこっと首を傾げて笑いかけてきた。


「知らないの?大野って一年の頃、底辺の男子三人組から一年間ずーっといじめられてたの。クラスメイトはみんな知ってたけど担任には気づかれないくらい陰湿だったし、何よりも巻き込まれたくなかったから黙ってたんだけどね。せっかく二年に上がってクラスが離れられたのに、苦しい過去から逃げることはできないのかな」


普段女子からちょっとした仕草でもきゃあきゃあと言われている九条が、性格悪く笑っていた。

その顔はどう見たって王子様なんかじゃない。


「それ、早く言えよ」


九条の本性とか今はどうでもよくて、急いで大野たちが去っていった方向を追いかける。


「くそ…っ、どこ行ったんだよ」