いつかこの歌が、まだ名前のない君に届きますように

「…?」


振り向くとそこにいたのは、走ってきたのか息切れをしながらずり落ちた大縁のメガネを直しているジャージ姿の男子生徒だった。


たしか同じクラスで斜め前の席の大野陽仁(おおのはるひと)

いつも一人で本を読んでいて、大人しくて、話したことは一度もない。


「ぼ、僕も借り物競走選択してて…その、一緒に練習行かないかな、と思って…」

「…なんで俺?悪いけど、練習には参加するつもりねぇから」


あまり強く言ったつもりはないけど、大野はびくりと大袈裟に怯えたように反応していた。

…なんなんだこいつ?

こんなに怯えるくらいなら最初から話しかけてこなければいいのに、なんで急に話しかけてきたんだ?


「そ、そっか。じゃあ、明日…!明日も誘うね!」

「…は?だから、明日もいかねぇ…」


言い終わるよりも先に、「また明日!」と言い残して大野はぴゅーんと素早く行ってしまった。

その後ろ姿をわけがわからなくてぽかーんと間抜けな顔で見送る。

…なんだったんだ?



「それは響輝と友達になりたかったからなんじゃないの?」