少しずつ暑くなってくると共に、体育祭の日が近づいてきていた。


「あれ、響輝!帰っちゃうの?響輝はたしか借り物競走に出るんじゃなかった?ちょうど校庭で練習始まるところだったよ」


ジャージ姿の花楓が廊下の向こう側から、帰ろうとしていた俺に向かってパタパタと駆け寄ってきた。

競技練習をしてきたのか、そのおでこには汗が光っている。


「あー…別に、練習しても意味ねぇし」

「え?どういう…」


言いかけた花楓の言葉を遮るように、ワイシャツの袖で垂れてきそうな汗を拭ってあげる。


「ちょ、汚いよ…!」

「じゃ、俺の分も頑張れよ」


驚いている花楓に背を向けて、その隙に足早にその場を立ち去る。

練習をしたところで何も意味がない。

どうせ俺は体育祭に出るつもりはないのだから。


「わ、わ、綿谷…くん…っ!」


靴箱で上履きを履き替えていると、か細い声で後ろから名前を呼ばれた。