「…なんだよそれ。そんなの間違ってんだろ」


–––「でもさ、“慣れ”をそのままにしておくと、それはいつか“自分”になっちゃうんだよね。いくら変えたいと後悔しても、いつの間にか手遅れになっちゃうことだってある」


「傷つけられることに慣れてんじゃねぇよ。嫌なことは嫌って言えよ。なんでも正直に言えるとこが昔から花楓のいいところだろ。今のおまえは間違ってんだよ」

「…っ」


じわりと花楓の両目に涙が滲んでいた。

きっと誰にも言えないで一人でずっと抱えていたんだろう。

馬鹿みたいに明るく笑っている裏で、本当は苦しんで泣いていたんだ。


「いつも綿谷は私の心を軽くしてくれるね…。あの時だってそう。迷子になって本当に怖くて、もう大丈夫だって頭ではわかってるのに涙が止まらなくて。そんな時に綿谷が渡してくれたこのキーホルダーのおかげで、怖いって気持ちが一気になくなって代わりに嬉しいって気持ちでいっぱいになってすごく救われた。唯一の幼なじみなのに、綿谷も私も変わっちゃって距離が空いて、このキーホルダーだけが私たちを繋いでくれている気がしたんだ。だから今でもずっと大事にしてるの。綿谷が三人から取り返してくれたんでしょ？ありがとう。…響輝は昔から変わってなんてなかったね」


–––「ありがとう」


俺からキーホルダーをもらった幼い花楓と、目の前の花楓の笑顔が重なって見えた。

昔から変わらないのは花楓だって同じだ。