「…ああ、ボーとしてた」


学校から十五分くらい歩いたところにある、団地の二階の一番右端を指差してオトが「あそこが私の家」と教えてきた。

オトに言われるまで、自分が素直にオトの横をついてきたことに気づいていなかった。

こんなに人と話したのなんて随分と久しぶりな気がするし、誰かを家まで送ったことも初めてだ。

そんな行動を自然とやっていた自分に一番驚く。


「送ってくれてありがとう。…さっきの幼なじみの子の話の続きだけど、響輝が誰かのことを気にするなんて変わってきてる証拠だと私は思うよ。まだ知り合って数日しか経ってないし響輝のことよく知ってるわけじゃないけど、なんとなく全てをどうでもいいと思って生きてる感じがしたから、誰かに興味を持って悩んでる響輝はすごく人間らしい。今まで通りの自分でいいのか、それとも慣れないことをしてみて変わるのか。よく考えなね」


優しく笑ったオトは今までで一番大人に見えた。

どこか子どもっぽいいつもの様子とは違って、思わず見惚れてしまうくらい儚く綺麗だった。

そんなオトの言葉がずっと、頭から離れなかった。



あれから三日が経ったが、花楓はまだどこか空元気だった。


「花楓」

「…ん?どうしたの?」


放課後、中庭掃除に向かういつメンの三人の後ろを浮かない顔でついていく花楓を、気づいたら思わず引き止めていた。

いやいや、引き止めてどうすんだよ。特に言うことなんてないのに。