苦い血の味を感じながらきっと目の前の男を睨みつける。

しかし男もまた、俺を鋭く睨みつけていた。


「…おまえなんて、生まれてこなければよかったんだ」


言ってからハッと我に返った様子の男は、それ以上何を言うわけでもなくそそくさと家を出て行った。


「…んなの、わかってるっつーの」


苛立ちをぶつけるかのように壁を拳で殴りつける。


俺の母親はもうこの世にはいない。

無理した出産をしたせいで、俺を産んですぐに死んでしまったから。

だから母親は俺の名前も知らないだろうし、俺だって母親のことを何も知らない。

父親が思い出して辛くなるのを嫌がって、母親が写っている写真を全て燃やしてしまったから俺は母親の顔も知らずに育った。

きっとあの男は俺が産まれてくるよりも母親が生きている方を望んでいたはずだ。

その証拠に俺は誰からの愛情ももらえずにこうして不良少年に育ってしまった。


でも、もう何もかもがどうでもいい。

誰から何を思われようと、明日死んでしまうかもしれないとしても全部がどうでもいい。

俺がこの世界で生きていることを望んでくれる人なんて、誰一人いやしないのだから。