「あ、響輝ー!」


校門を出て駅の方に向かっていると、後ろから大きな声で名前を呼ばれた。

俺の名前を呼ぶ人はただ一人…。


「また会ったねー!今帰り?今日はちゃんと学校行ったみたいでえらいね」

「…やめろ」


振り返るよりも先に、後ろからやってきたオトにわしゃわしゃと子どもをあやすように頭を撫でられ、べしっとその手を振り払う。

オトは初めて会った時から距離感が近い女だ。

別に意識しているわけじゃないけど、俺になんの躊躇いもなく触れてくる女なんて初めてで、どうしたらいいかわからなくなる。


それにオトはどんなに突き放しても、次に会った時には笑顔で変わらず名前を呼んでくるから、こっちも少しずつだけど心を許してしまっている。


「あははっ、照れてるの?私の家すぐそこだから、寄っていく?」

「…照れてもねぇし、寄ってかねぇよ」


スタスタと歩き出すと、オトが駆け足で追いかけてきた。

その歩幅に合わせるように少しだけスピードを落とす。


「…この前もそうだけど、仕事とかしてねぇわけ?暇なの?」

「うわ、ひどい聞き方。私、一応響輝の先輩なんだからね?仕事はねー…まあ色々あって今はしてないかな。音大卒業して前までは歌に関わる仕事してたんだよ。歌手とかのライブのサポートをする裏方系なんだけどね」