父親はいつも俺を呼ぶ時「おい」とか「おまえ」とかで、最後にいつ名前を呼ばれたかなんて覚えていない。

学校のやつらは俺を「怪物」だと呼ぶし、幼なじみの花楓は唯一俺の名前を昔は呼んでくれていたけど、中学に上がる頃には苗字に変わっていて、今は名前を呼んでくれる人なんてもういない。


「どうして?かっこいい名前じゃん」

「…かっこよくなんてねぇよ。呼ばれない名前なんてあってもなくても同じ」

「よくわからないけど、響輝の周りには響輝を名前で呼んでくれる人がいないってこと?」


余計なことまで話しすぎてしまったことに気づき、ハッと我に返る。


こんなことオトに言ってどうする。

誰からも名前を呼ばれない日常なんてどうでもいいと思っているはずなのに、それなのにまるでこれじゃあ本当は気にしているみたいだ。


「…なんでもねぇよ。おまえには関係ない」

「あ!また」

「…は?」


なぜかオトが怒ったように頰を膨らませて俺を睨みつけてきた。


「また“おまえ”って言った。響輝は私のこと一度も“オト”ってまだ呼んでくれてないよね。ちゃんと名前教えたんだから、おまえなんて呼ばれると悲しい。響輝だって名前を呼ばれないと悲しいでしょ?自分の名前も呼んでもらいたいなら、まずは相手の名前からちゃんと呼ばないと」