「濡らしたものの方がいいかな…。ちょっと待っててね」
階段を上りどこかへ行ったかと思うと、近くの自販機でわざわざ買ってきたのかペットボトルに入った水を持って女の人は帰ってきた。
「“なんて名前をつけようか。この気持ちに”」
「…その歌、初めて聴いた」
無意識なのか歌詞を口ずさみながらハンカチをペットボトルの水で濡らしていた女の人に、気づいたらそう口にしていた。
本当に、無意識だった。
口から言葉が滑り落ちたような、そんな感じだ。
「ん?あ、私今歌ってた?これね、自作なんだ。って言っても、まだ未完成だけど」
濡れたハンカチを再び頰に当てられたところで、ハッと我に返る。
「…いい。俺に構うな」
「どうして?怪我した人を放っておけないよ」
「こんなの怪我のうちに入らねぇ」
手を振り払った拍子に女の人のハンカチが地面に落ちるが、気にもせずに背を向けて歩き去る。
「ねえ!私、オトって言うんだけど、君の名前は?」
女の人が必死に叫んでくるが、無視して歩き進める。
「…名前なんて、ねぇよ」
それが彼女、オトとの出逢いだった。
階段を上りどこかへ行ったかと思うと、近くの自販機でわざわざ買ってきたのかペットボトルに入った水を持って女の人は帰ってきた。
「“なんて名前をつけようか。この気持ちに”」
「…その歌、初めて聴いた」
無意識なのか歌詞を口ずさみながらハンカチをペットボトルの水で濡らしていた女の人に、気づいたらそう口にしていた。
本当に、無意識だった。
口から言葉が滑り落ちたような、そんな感じだ。
「ん?あ、私今歌ってた?これね、自作なんだ。って言っても、まだ未完成だけど」
濡れたハンカチを再び頰に当てられたところで、ハッと我に返る。
「…いい。俺に構うな」
「どうして?怪我した人を放っておけないよ」
「こんなの怪我のうちに入らねぇ」
手を振り払った拍子に女の人のハンカチが地面に落ちるが、気にもせずに背を向けて歩き去る。
「ねえ!私、オトって言うんだけど、君の名前は?」
女の人が必死に叫んでくるが、無視して歩き進める。
「…名前なんて、ねぇよ」
それが彼女、オトとの出逢いだった。



