「…触んな」

「あ、ごめん。痛かった?」


鋭く睨んでいるのに、女の人は心配そうに首を傾げているだけで全く怯えた様子はない。

いつもはこの目をすれば大抵のやつは離れていくというのに。

…なんなんだ?


「ん?もしかしてさっき、あっちの方で騒ぎながら喧嘩してた子の一人?」

「…知ってて止めもしないで呑気にここで歌ってたのか?」

「あれ、止めた方がよかったの?喧嘩するほど仲が良いっていうじゃない。あれも青春の一つかなって思ったんだけど…。こんなにボロボロになるくらいなら止めた方がよかったね」


ポケットから取り出したハンカチをそっと頰に当ててきた女の人が、にこっと優しく微笑んできた。

なんだこいつ…。

少し、いやかなり変わってる。


喧嘩を見て見ぬふりをしてきた今までのやつらとは全然違う。

喧嘩は悪いことだからやめろと止めるどころか、いいことだと認識して呑気にここで歌ってたというのか?

普通、警察に通報したり周りに助けを求めたりするだろ。

何よりも、拒むべきだとわかっているのに、こいつの不思議な柔らかい雰囲気のせいで体がうまく言うことを聞いてくれない。