ひとにやさしく

 電車に揺られながら、新しい高校に向かう。転校生として挨拶をしないといけないから早めに家を出たせいか、周りには会社員くらいしかいない。
 家から三十分間経った頃。これから通う高校がある駅の名前が聞こえて、微睡みから覚めた。
「やば…」
 予定よりも数十分遅れて着いた高校は、もともと通っていたところよりも大きく、私なんか潰されてしまうんじゃないかと感じるくらいの威圧感があった。
   “私立愛友高校”
 友情と青春を重んじる校風でありつつ偏差値は七十と比較的高め。
(前の高校は頭悪かったからな…) 
テンコーセーの水野琴海(みずのことみ)?」
「え…。」
 そこに立っていたのは、中学三年間ずっと同じクラスの玄弥(げんや)だった。
 同じクラスと言っても一年間に話すのは一回あれば多かったから、きっと覚えていない。
「転校生の水野琴海か、って聞いてんだけど」
 私が中々返事しなかったから、今度はイライラしながら聞いてきた。
「うん、そう」
「オッケ、ウチの担任から連れてこいって言われてんの。ついてきてくんね?」
「うん」
 玄弥がいるってことは、あの人もいるのかな。

(会いたいなー)

「玄弥です、水野琴海連れてきました」
「お、ありがとな」
 優しく笑った若い男。おそらくこれから私の担任となる人物。
「これから水野の担任を務めさせてもらう香椎響(かしいひびき)だ。待ってたぞー」
 ―ちょっとチャラいな。
「あ、はい。よろしくお願いします。水野琴海です」
「おう、で、玄弥…悪いが、水野を教室まで案内してくれないか?先生はこれから会議してから教室行くから」
「わかりました」
 この学校は人手不足なのか?ってほど先生の数がいない。結構名が通ってる高校だと思うけどな…。

「琴海、行くぞ」

「んえ?」

 突如の呼び捨てに変な声が出てしまった。
「なんで呼び捨て?!」
「いや、なんかどっかで聞いたことある名前だなって考えてたら思い出した。中学ン時ずっと同クラだったよな」
 意外。私なんかに興味なさそうなのに。
「そう…だけど。てっきり覚えていないかと思ってた」
「三年間一緒でそんなヤツはいないだろ」
 ふっ、と小さく笑って言った。
「さ、教室についた、大丈夫か?」
 幼稚園児を送るかのように聞いてくるのがどこかおかしくて、「全然大丈夫」と朝連れてきた緊張は消えていた。