春休み、私たち二人は揃ってお買い物にショッピングモールを歩いていた。

 なんてことはない。四月から大学に通う私たちの学校用品を揃えに来ていただけの話。

「沙也は落ち着いたか?」

 売り場巡りも一段落して、何を買うかまとめるために一度フードコートでお昼ご飯にしようと座った。

「それは哲也くんだって同じでしょ?」

 高校三年生の三学期は登校日を除いて自宅学習を選ぶことも出来る。

 でも、私たちはその期間も学校に来ていて、二人しかいない教室で大学が始まってすぐに行われるという学力テスト対策の予習時間に充てていた。

 これを見ていた先生たちが、私たちの成績維持の仕掛けを知ったって。

 そして卒業式の日、私たちは二人揃ってみんなからお詫びの言葉をかけられたんだ。

 私に最初に話を持ち込んだ友梨ちゃんからも無責任な噂を信じて悪かったって謝られたんだよね。

「本当に反省したなら一人ずつ来ても良さそうなもんだけど、そこまでは出来なかったんだろ。まぁ、高校時代までの連中ともしばらく会うこともないだろうしな」

「そうだよね。私たち二人を誰も知らない場所でやり直すんだもんね」

 そう、私たちは新学期からこの小さな町を出ることにしている。

 私たち二人のことを誰も知らない場所で再出発することを受験の時から決めていた。

 同じ学校に進学が決まってから、私たちのことをすべて見てきた双方の両親から、それぞれの一人暮らしではお金ももったいないからと同居を許されたのには驚いたよ。

 だから、引っ越しの準備は荷物の量も最小限で、足りないものがあったら都度どちらかの実家から送ってもらうか新しく買うかを決めればいいことにした。

 実家を出る寂しさはあるけれど、それ以上に二人で新しい場所で再出発できることの方が嬉しく楽しみだった私たち。

 いつだったか「他はなんとかなってきたけど、料理はできないぞ?」なんて笑っていたけれど、それは私の出番だと思っている。きっとこれも見越して哲也くんのご両親が話を入れ込んだのだと思うだなんて内幕を教えてくれたり。

 最初は慣れない新しい場所での生活や環境に戸惑うこともあるかも知れない。

 でも、一人じゃなくて二人だもん。それに私の中では、哲也くんさえ許してくれればその先のことだって心の中で決意していることもある。

 だから、その前の練習として大学生の四年間はちょうどいいと思っている。

「帰りに、あの海岸に行ってみないか?」

 買い物の荷物を両手にぶら下げて、哲也くんが提案してきた。

「そういうことは身軽な時に言うんだよぉ」

 口ではそう答えるけれど、笑って私は頷いた。

 小さな町の外れにある小さな海岸。

 もう寒さは緩んできていたから、私はローファーと靴下を脱ぎ砂の上で裸足になった。

「おい、沙也?」

「だって、今の私はここから始まったんだもん。大丈夫。先には行かないから。心配だったら沖に出ていかないように手でも握っておいて?」

 彼も分かってる。私が波打ち際の先に足を進めることはないと。

「そうだな。じゃあどこにも行かないようにこうしておくか」

「……うん。ここがいい。あったかくて安心できちゃう。だから私のこと、ずっと見ていてね」

 両腕で抱きしめられた彼の胸元で、私はこの先のお願いを初めて口にした。