突然のことにどこから話そうか……。でも、全部ぶちまけていいと言われたなら、私たちが後ろ指を指される関係でないことを伝えるには、ことの発端から話すしかないと思った。
「ではお時間を頂きましたので、ここで私から質問をします。手を挙げることはしなくていいです。これまで小学生から高校の今まで、イジメをしたりされたりした人はいますか?」
いきなりの質問に体育館がざわつく。手を挙げなくていいといったのは、私たちの出番はこれで最後だから、わざわざ遺恨を残す事はしたくないという理由だった。
「はい。心当たりのある人もいるでしょう。私は中学時代に酷い事をされてきました。無視をされたり、物を取られたり隠されたり、いわれのないことをでっち上げられたり。誰にも迷惑をかけたくなくて我慢してきました。でも、それも限界になって、私は中二の冬に裸足で海に入って、『こんな事もう終わりにしよう』と思ったんです。意味は分かりますよね?」
体育館の中が静まり返る。みんな高校生だ。私が自傷未遂を起こそうとしたことは分かるだろう。
「その時に、後ろから手をつかまれて、足が波にさらわれるのを止めてくれた人がいました。その人こそ、ここにいる大木哲也先輩なんです」
みんなの視線が一斉に私の後ろに移動する。
「先輩も私と同じ経験者です。それを跳ね除けて、中学では学力も人気も今のみんなが知っている立ち位置を勝ち取った人です。そして、私に自分の経験をすべて話してくれました。先輩の存在があったからこそ、私はいま学校の選択をはじめとして、ここにいることが出来ています」
ここからが本題だ。一度振り返り、彼の顔を見ると「そのまま続けろ」と頷いてくれた。
「先にこの高校に入った先輩を追いかけるように、私もこの学校に入ることが決まった時、先輩は長期の入院を余儀なくされて、留年が決まってしまいました。これが皆さんが言っていた年齢の謎の答えです」
これで一年の年の差の謎を明かしたことになる。
「留年が決まり落ち込んでしまった先輩に、私は自分の人生を変えてくれた恩として、『高校では同学年』になることを伝えて、一緒に歩いていきたいと私からお付き合いを申し込んだんです。ですから、私が中学三年生の時から私たちは二人でした。私たちの両親にもそれは話していて、了解を得た上できちんとお付き合いをしてきました。皆さんの噂にあるような、年齢の差を利用して私のことを好きなように……というのは全く逆です。私からお願いをして隣にいさせてもらっているんです」
特に女子の視線が私に釘付けになっているのが分かる。私の恋愛事情の公開話だもんね。
でもこれは紛れもなく私たちが経験してきた事実だ。もし話を広められるなら、こっちのほうがいい。
「先生方の前で言う事が相応しいかは微妙ですけれど、私の初恋です。あの日、海で手を引かれていなければ、ここに私はいません。それからはお互いに傷ついた時には支え合ってきました。一緒にいるから勉強が疎かになったと言われないように、お互い必死でここまで来ました。私たちのことを面白いネタだと思って噂を拡散した人は反省してください。先輩は私に今日までずっと我慢だと言ってきました。そして今日、私にこれまでのことを吐き出す時間をくれたんですよね?」
「そんなもんだろ?」
哲也くんは笑って再びマイクの前に戻った。
「まぁ、そんなことで先生方も知っている僕の過去もみんな三上副会長がぶっちゃけてくれましたが……。それでも異議がある人はいると思います。でもこの数ヶ月、三上さんが辛そうにしているのを見ていられなかった。だからどういう結果になるか分からないけれど、この時間をぶっつけ本番で作りました。思いっきり吐き出せたか?」
「えっ? これ考えてたんじゃないの? 念入りに考えられていたのかと思ったのに……? 何も考えずに全部しゃべっちゃったよ?」
私の返事に体育館は大爆笑だ。
「沙也やっちゃったじゃん!」
「夫婦漫才にしてはスケールデカすぎ!」
「人生かかってたんだもんな」
「二人ともかっこよすぎ!」
そんな声があちこちから聞こえる。
でもそこにはもう噂をしていた時のような疑いの視線はない。
マイクを先生と次の生徒会執行部に引き継いで、私たちが二人並んで壇上から降りた時には拍手まで起きたっけ……。



