二学期も十二月に入ると、次年度生徒会の選挙が行われる。

 私たち三年生は春には卒業してしまうから今回の選挙には不参加。

 この選挙に立候補できるのは一年先と二年生だから、私たちの時代のように同じ学年で会長と副会長が並んだり、一年生で重職に選ばれることもある。

 ただね……、そこでも哲也くんの噂はねじれて伝わっていた。

 生徒会長になれば、自分の好きな相手を副会長に出来るなんて。もう無茶苦茶だ。

 このことで頭から湯気が出そうな私に冷静になれと言い続けてくれたのが哲也くんだった。

「まぁ落ち着けって。最終日に引き継ぎ式があるだろ? あれまで我慢だ。今ここでトラブルを起こせばそれもパーになっちゃう。それは俺たちにとってもマイナスなイメージにしかならない」

 そんな時間も何とかやり過ごして、ようやく二学期の授業が終わり、体育館で終業式と生徒会の引き継ぎ式が行われる。

 今年も、会長と副会長は同じ二年生から選出された。この選挙に私たちは一切手を出してはいけないから、事実上役目は終わっていたんだけどね。

「それでは、生徒会の引き継ぎを行います。大木哲也会長、代表でお願いします」

 壇上にいる私たちと、これから何を言い出すのかと期待している全校生徒の視線が交錯する。

「そんなこんなで、僕の挨拶も最後になりました。皆さんが選んだ峰尾(みねお)会長と鈴原(すずはら)副会長にこの最後の言葉を持って全生徒会権限を引き継ぎます」

 ここまではシナリオどおりだ。問題はこのあと。それぞれ一年間の感想という形で一言話さなければならない。

「大木会長、先輩はご自分にかけられた噂について知らないわけないと思いますが、そのことには何も触れずに終わるんですか? それじゃみんな納得しませんよ!」

 突然、思いがけない内容で二年生のブロックから声が上がった。

 その言葉に端を発して、体育館のあちこちから拍手があがる。

「仕方ありませんね。では、そのことについてお話をしたいと思いますが、先生方、お時間はよろしいですか?」

 壁に並んでいる先生たちに許可を貰って、哲也くんは自らの言葉で言ったんだ。

「皆さんが噂していることの一部は本当です。僕は年齢からすれば今の三年生より一つ上の十九歳であることは間違いありません。これは日本の学校教育の中で、高校以上ではごく普通に起こりうることです。そこは誤解しないでください」

 あちこちから「やっぱり」という声が聞こえる。ここまで広げてしまった騒ぎをどう収める気なんだろう。

「僕についていろいろな話題が飛び交っていることは承知しています。ですが、年齢以外のことについては、僕が話しても聞く耳を持ってもらえないでしょうから、一番の証人に話してもらうことが一番いいと思っています。ここからは三上副会長に変わりたいと思います」

「私?」

 予定していなかった突然のことに、私の方が面食らった。

 哲也くんは私をマイクの前に手招きすると、背中に手を当てて、私だけに聞こえるように言ったんだ。

「ここで全部ぶちまけちまえ。俺にも遠慮はいらない。沙也がこれまで感じたこと、思っていたこと、全部話してスッキリしろ。どうせ俺たちの生徒会の役目はここで終わりだ」

 ニッと笑って背中を叩いて私の斜め後方に下がったんだ。