「お前、俺の気持ちを分かって言ってるのか? わざとなのか?」
大きな瞳が、
きょとんとこちらを見つめている。
吸い込まれそうな深い黒に、
自分の意地悪い顔が映っている。
「え……っ?」
「頭が良くてけっこうイケメンな俺が、好きな奴は誰だろうなあ」
「えっと………なんか怒ってる…?」
「さあな。俺が好きな奴は、バカで能天気で、追試のプロの誰かさんだ」
いきなり頬をつかまれて
むーむー言ってるアホに
俺は畳みかける。
「俺が好きなのは」
「んむっ、⋯⋯?」
「お前だ」
「………!? え、……?」
弓月は頬を
鷲掴みにされたまま目を泳がせ、
茹でダコのように
赤くなっていく。
捕らえた獲物を喰らうように――
弓月の唇へ、俺の唇を、
触れるぎりぎりの
距離まで近づけた。
「俺がどれだけお前を想っていたか、教えてやらないとな」
「え、え、ふぇ……っ!!??」
弓月の目玉が
うずまきのように
なったところで、
やっと手を離してやる。
「ははっ、なんてな。冗談だよ。茹でダコみたいになって、弓月くんは本当にかわいいなあ」
解放されても
なお硬直し続ける子犬を、
バカなやつ、とからかいながら
俺は教科書類を整頓し始めた。
教科書を弓月のカバンに
全部しまい終わってやっても、
まだ、弓月は背中を震わせ
俯いている。
――ああ、しまった。
やってしまった。
弓月は俺を嫌悪し、
離れて行ってしまうかもしれない。
今さらになって汗が噴きあがる。
どう言い訳しようか。
土下座して許しを請おうか――
弓月を傷つけたくせに、
利己的な考えばかり
浮かぶ自分に嫌気が差す。
俺は土下座体勢に入り、
頭の中で何十通りもの
謝罪文を瞬時に組み立てた。
すると、
蚊の鳴くような声が絞り出された。

