======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
物部満百合(まゆり)・・・物部一朗太と栞(しおり)の娘。
久保田健太郎・・・久保田誠とあつこの息子。
大文字おさむ・・・大文字伝子と学の息子。
福本めぐみ・・・福本英二と祥子の娘。
依田悦子・・・依田俊介と慶子の娘。
服部千香乃(ちかの)・・・服部源一郎とコウの娘。
南原未玖(みく)・・・南原龍之介と文子(ふみこ)の娘。
山城みどり・・・山城順と蘭の娘。
愛宕悦司・・・愛宕寛治とみちるの息子。
南出良(みなみでりょう)・・・転校生。千香乃と同じクラス。
片山継男・・・一輪車大会で、悦子と争った。今はカレシ。
物部一朗太・・・喫茶店アテロゴのマスター。満百合の父。
物部栞・・・満百合の母。
辰巳一郎・・・アテロゴのウエイター。
瀬名昌昭・・・ミュージシャン。コロニー以降、辛口コメントで有名になる。今は、俳優もミュージシャンも辞めて、音楽雑誌のコラムニストになっている。
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==ミラクル9とは、大文字伝子達の子供達が作った、サークルのことである。==
午後1時。喫茶店アテロゴ。
「どうなったんだ、『恋の鞘当て』の結果は?」と、健太郎を覗き込んで言った。
今日は、健太郎以外はまだ誰も来ていない。
「古いわよ、表現が。時代劇じゃあるまいし。健太郎君、『恋の鞘当て』って言うのはね、昔遊女を二人の武士が取り合ったことから来る言葉なの。詰まり、女を巡った男同士の争い。この場合、逆じゃないの。」と、栞が解説した。
健太郎は『遊女』のことは知っているが、そんな諺があるとは知らなかった。
「後で、悦司ときいてみたんだ。おさむは、藤堂先生が好きなんだって。夜に両親に尋ねられて、つい本音を言っちまった、て。内緒だよ。」
「内緒の話は、ここではしない方がいいかもよ。喫茶店は情報発信基地だから。」と、辰巳が言った。
「お前が言うかなあ。まあ、先生が初恋の人って、よくあるよな。」
「よくあるんだよ、マスター。」と、奥の席からカウンターに移った瀬名が言った。
「聞いてたんですか?」
「口は堅いよ。おさむ君のお母さんには、昔縁が出来てね。僕が書いている音楽雑誌のコラムの感想を書いて送ってくれている。コラムと言っても、昔の歌の『思い出』だけどね。」
そこへ、おさむ達がやってきた。
「あ。」と、おさむは硬直した。
「瀬名さんが、どうして?・・・あ。母も父も大ファンです。昔からだそうです。いつも年賀状や暑中見舞い、ありがとうございます。」
「しっかりした息子さんだ。大文字さんの息子らしい。」と、瀬名は微笑んだ。
「瀬名さん。おさむはね、父親に習って小説家になるのが夢らしいんですよ。」と、物部が言うと、「応援させて貰うよ。そろそろ時間かな。マスター、お勘定。」と瀬名は言った。
「はいはい。辰巳。」「了解です。」
瀬名が去った後、「おさむ、知ってる人?」と健太郎が問うと、「うん。昔、EITOの事件で何度か協力して貰った、って母さんが言ってた。その頃はまだ、歌手兼俳優だった。コロニー以降、徐々に音楽活動辞めたって聞いてる。最近、『ムジカルジャパンジー』っていう音楽雑誌にコラム書くようになった、って、父さんが言ってた。瀬名さんのCD、ウチに一杯あるよ。」と。おさむは答えた。
「今日は、モールに出来た、中古CDショップの開店祝いに来たらしい。この店のこと、よく覚えてくれたよ。まあ、シネコンに一番近い喫茶店はウチなんだけどね。」
「完全に音楽活動辞めた訳じゃなかったのね。それに、律儀。あのCDショップのオーナーはね、瀬名さんのファンクラブにいたらしいの。もうファンクラブは無いけど、文通は続けていたらしいの。で、店をオープンする報せを聞いた瀬名さんは、駆けつけた。今日が『初対面』らしいの。ロマンチックでしょ。」
栞の解説に、ミラクル9女子は、妄想が膨らんだのか、うっとりとした目をした。
「憧れの人、と出逢うのは、どんな気分かな?」と、みどりが言うと、「そりゃあ、涙うるうるよね。」と、未玖が言った。
「でもさ、時間が経った女性と遭うと、がっかりしない?」と、千香乃が言うと、「それはそれ。大人の対応するに決まってるわよ、ねえ、マスター。」と、めぐみが尋ねた。
「心配ない。瀬名さんは、昔の、その人の写真と、今の写真、両方持ってた。」
「いい話だわあ。」と、悦子が言うと、「そうかなあ。」と、継男がつい言ってしまった。
「継男、婚約破棄!!」
「え?婚約してたの?」と良が言うと、継男は土下座した。
「申し訳ありません!!」
「縁は異なもの味なもの。将来が楽しみだわ、みんな。」と、笑って栞は奥に引っ込んだ。
「マスター。俺、出前、行ってきます。」と辰巳は言い、岡持を持った。
「ご苦労さん。あ、みんな、注文はまだかな?」と、マスターのわざとらしい言葉が店に木霊した。
雨は上がったが、誰も言う者はいなかった。
―完―
============== 主な登場人物 ================
物部満百合(まゆり)・・・物部一朗太と栞(しおり)の娘。
久保田健太郎・・・久保田誠とあつこの息子。
大文字おさむ・・・大文字伝子と学の息子。
福本めぐみ・・・福本英二と祥子の娘。
依田悦子・・・依田俊介と慶子の娘。
服部千香乃(ちかの)・・・服部源一郎とコウの娘。
南原未玖(みく)・・・南原龍之介と文子(ふみこ)の娘。
山城みどり・・・山城順と蘭の娘。
愛宕悦司・・・愛宕寛治とみちるの息子。
南出良(みなみでりょう)・・・転校生。千香乃と同じクラス。
片山継男・・・一輪車大会で、悦子と争った。今はカレシ。
物部一朗太・・・喫茶店アテロゴのマスター。満百合の父。
物部栞・・・満百合の母。
辰巳一郎・・・アテロゴのウエイター。
瀬名昌昭・・・ミュージシャン。コロニー以降、辛口コメントで有名になる。今は、俳優もミュージシャンも辞めて、音楽雑誌のコラムニストになっている。
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==ミラクル9とは、大文字伝子達の子供達が作った、サークルのことである。==
午後1時。喫茶店アテロゴ。
「どうなったんだ、『恋の鞘当て』の結果は?」と、健太郎を覗き込んで言った。
今日は、健太郎以外はまだ誰も来ていない。
「古いわよ、表現が。時代劇じゃあるまいし。健太郎君、『恋の鞘当て』って言うのはね、昔遊女を二人の武士が取り合ったことから来る言葉なの。詰まり、女を巡った男同士の争い。この場合、逆じゃないの。」と、栞が解説した。
健太郎は『遊女』のことは知っているが、そんな諺があるとは知らなかった。
「後で、悦司ときいてみたんだ。おさむは、藤堂先生が好きなんだって。夜に両親に尋ねられて、つい本音を言っちまった、て。内緒だよ。」
「内緒の話は、ここではしない方がいいかもよ。喫茶店は情報発信基地だから。」と、辰巳が言った。
「お前が言うかなあ。まあ、先生が初恋の人って、よくあるよな。」
「よくあるんだよ、マスター。」と、奥の席からカウンターに移った瀬名が言った。
「聞いてたんですか?」
「口は堅いよ。おさむ君のお母さんには、昔縁が出来てね。僕が書いている音楽雑誌のコラムの感想を書いて送ってくれている。コラムと言っても、昔の歌の『思い出』だけどね。」
そこへ、おさむ達がやってきた。
「あ。」と、おさむは硬直した。
「瀬名さんが、どうして?・・・あ。母も父も大ファンです。昔からだそうです。いつも年賀状や暑中見舞い、ありがとうございます。」
「しっかりした息子さんだ。大文字さんの息子らしい。」と、瀬名は微笑んだ。
「瀬名さん。おさむはね、父親に習って小説家になるのが夢らしいんですよ。」と、物部が言うと、「応援させて貰うよ。そろそろ時間かな。マスター、お勘定。」と瀬名は言った。
「はいはい。辰巳。」「了解です。」
瀬名が去った後、「おさむ、知ってる人?」と健太郎が問うと、「うん。昔、EITOの事件で何度か協力して貰った、って母さんが言ってた。その頃はまだ、歌手兼俳優だった。コロニー以降、徐々に音楽活動辞めたって聞いてる。最近、『ムジカルジャパンジー』っていう音楽雑誌にコラム書くようになった、って、父さんが言ってた。瀬名さんのCD、ウチに一杯あるよ。」と。おさむは答えた。
「今日は、モールに出来た、中古CDショップの開店祝いに来たらしい。この店のこと、よく覚えてくれたよ。まあ、シネコンに一番近い喫茶店はウチなんだけどね。」
「完全に音楽活動辞めた訳じゃなかったのね。それに、律儀。あのCDショップのオーナーはね、瀬名さんのファンクラブにいたらしいの。もうファンクラブは無いけど、文通は続けていたらしいの。で、店をオープンする報せを聞いた瀬名さんは、駆けつけた。今日が『初対面』らしいの。ロマンチックでしょ。」
栞の解説に、ミラクル9女子は、妄想が膨らんだのか、うっとりとした目をした。
「憧れの人、と出逢うのは、どんな気分かな?」と、みどりが言うと、「そりゃあ、涙うるうるよね。」と、未玖が言った。
「でもさ、時間が経った女性と遭うと、がっかりしない?」と、千香乃が言うと、「それはそれ。大人の対応するに決まってるわよ、ねえ、マスター。」と、めぐみが尋ねた。
「心配ない。瀬名さんは、昔の、その人の写真と、今の写真、両方持ってた。」
「いい話だわあ。」と、悦子が言うと、「そうかなあ。」と、継男がつい言ってしまった。
「継男、婚約破棄!!」
「え?婚約してたの?」と良が言うと、継男は土下座した。
「申し訳ありません!!」
「縁は異なもの味なもの。将来が楽しみだわ、みんな。」と、笑って栞は奥に引っ込んだ。
「マスター。俺、出前、行ってきます。」と辰巳は言い、岡持を持った。
「ご苦労さん。あ、みんな、注文はまだかな?」と、マスターのわざとらしい言葉が店に木霊した。
雨は上がったが、誰も言う者はいなかった。
―完―


