======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 物部満百合(まゆり)・・・物部一朗太と栞(しおり)の娘。
 久保田健太郎・・・久保田誠とあつこの息子。
 大文字おさむ・・・大文字伝子と学の息子。
 福本めぐみ・・・福本英二と祥子の娘。
 依田悦子・・・依田俊介と慶子の娘。
 服部千香乃(ちかの)・・・服部源一郎とコウの娘。
 南原未玖(みく)・・・南原龍之介と文子(ふみこ)の娘。
 山城みどり・・・山城順と蘭の娘。
 愛宕悦司・・・愛宕寛治とみちるの息子。

 南出良(みなみでりょう)・・・転校生。千香乃と同じクラス。
 片山継男・・・一輪車大会で、悦子と争った。今はカレシ。

 鈴木栄太・・・小学校校長。
 藤堂所縁・・・小学校教師。自称ミラクル9の顧問。
 久保田あつこ・・・健太郎の母。警視庁警視正。
 高峰圭二・・・元刑事。今は、警備会社に勤めている。

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 ==ミラクル9とは、大文字伝子達の子供達が作った、サークルのことである。==

 午後3時半。スーパー。
 ミラクル9が、買物にやって来ると、店長が近づいて来た。
 「助けてくれ、ミラクル9。」
 「どうしたんですか?店長。」代表して健太郎が尋ねた。
 「喧嘩しているんだよな。今日は祝日だから、いつもと違って暇な時間帯じゃない。」
 「どこの売り場?」
 「雑貨コーナー。3番通路。」
 ミラクル9は、走って行った。
 喧嘩している片方は継男だった。
 「どうしたんだ、継男。」と、悦司が尋ねた。
 「マスクは、人からうつされない為にある、って聞かないんだ。ウチのお母さんは、事務員だけど、病院に勤めているから、聞いている。うつされない為じゃなくて、うつさない為だって、言ってるんだけど。」
 「へえ。博物館行きの考え方だね。昔、コロニーの頃、『マスク警察』って流行ったらしいけど、そんな考え方する人がまだ、いるんだ。」おさむが感心して言った。
 見れば、その少年は大きなマスクを口に着けている。
 「そう信じるのは勝手だけど、他人に押しつけるのは、行きすぎだろう?さっき、おばあさんに言って、マスク買うべきだって、言ったんだ。おばあさん、泣いて、どっかに行ったよ。」と、継男は説明した。
 「年齢に限らず、女性の敵ね。泣かせるなんて。」と、悦子は腕を組んで言った。
 「誰だって、風邪は引く。いや、引く可能性はある。引き初めは、自覚症状がないことが多い。病院や医療関係者がマスクを推奨するのは、自覚症状がないまま、実は風邪を引いて、くしゃみや咳をした時に『飛沫感染』をする可能性があるからなんだ。コロニー以降は、従来通り、インフルエンザ流行時なんだけどね。確かに、今年もインフルエンザが流行っているから、『今は』必要なのかも知れない。父さんの話だと、コロニーの時は年中マスクを外せない、異常な事態が長く続いたらしい。ヴァクチンや治療薬が出来てから、状況が変わった筈なのに、薬品メーカーに忖度したマスコミが煽り続けたって話だ。『複数のビールスに同時感染』するとか、流言蜚語も飛び交った。蜚語の『蜚』って『悲しい虫』って書くんだ。詰まりは、『デマ』。」
 おさむが得意気に話すと、「何だよ、お前。お前の親は医者か?」と尋ねた。
 「医者じゃない。」
 おさむの言葉に「あんたが、おばあさんにマスク買えって言ったのは犯罪よ。」と満百合が割って入った。
 「何だよ、お前の親は警察か?」と、少年は凄んだ。
 「僕の親は警察だ。強要罪だな。」と、悦司が言い、健太郎も「俺の親も警察だ。」と言った。
 「何だよ、お前は、お前らは警察じゃないだろうが。」
 「親が警察だったら納得するみたいなこと言って、親が警察だって言ったら、お前は警察じゃないから信用出来ない、って、おかしな理屈だね。」と、やって来た藤堂が言った。
 やって来た、少年の父親らしき男が言った。マスクをしている。
 「お前は誰だ?」「教育者ですけど、何か?」「塾の講師なんか用はない。」
 「小学校の教師ですけど、何か?」「ヒラの教師なんか用はない。」
 「呼んだ?」と、鈴木校長が言った。
 「呼んでないよ、ジジイ。」
 「あんたも、その内にジジイになるよ。40歳超えたら、早いよー。あ、校長ですが、私の生徒達や、『ヒラ』の教師が何かご迷惑でも?」
 開き直った父親は、「だから、みんなマスクする義務があるんだ。」と、力んだ。
 「ちょっと違いますね。医療機関の中の場合と違い、インフルエンザ流行時の、市井の場所では、『努力義務』です。『出来ればお願いね』、です。政府から『非常事態宣言』は発出しましたか?」
 「発出?発令だろう?」「いえ、発出です。出発と同じ意味です。あの時も、政府は他国のような『命令』はしなかった。『お願い』です。今は、その『非常事態宣言』すらない。マスクをしていない人を犯罪者扱いする『決めつけ刑事』は良く無いですね。」
 「呼ばれました?」と、警備員の制服の高峰が顔を出した。
 「元『決めつけ刑事』の、高峰です。何の騒ぎです?」
 おさむが、要領よく経緯を説明した。
 「成程ね。マスクを購入する予定でしたら、レジで精算して下さいね。それから、あなたのお子さんが犯した『強要罪』は、犯罪として立件しにくい行為ですが、『迷惑行為』ですから、以後は止めて下さいね。しつこいようだと・・・。」
 「ストーカー禁止法を適用、ね。」と、言って健太郎の母、あつこが登場した。
 親子は、周囲に集まった人々を威嚇しながら、レジに並んだ。マスクを買物カゴに入れて。
 「かあちゃん、今日、非番だったね。」と健太郎が言うと、「うん。今日は執事もお休みだから、代わりに、かあちゃんがパンケーキ、作ってあげる。皆もおいで。藤堂先生も校長先生も、どうぞ。」
 午後5時。久保田家。
 遅い「おやつ」に皆、歓喜した。
 両先生は、その後、『トレーニング場』を見学した。
 ―完―