灯と喧嘩した後、俺達は連絡を取らないまま年を越した。灯とちゃんと話しあいをしたかったが、時間がそれを許さなかった。
言い訳かもしれないが、新しいアプリの開発と、店舗の海外進出で忙しくて俺は寝る間もなかった。灯を掴んでいたい気持ちはあったが、はらはらと灯の気持ちが離れていくのを感じていた。灯からの連絡もなく、クリスマスもお正月も灯が何をしているか全くわからなかった。付き合ってからこんな事は初めてだった。
ただ不安だった────。
「随分お疲れの様ですが大丈夫ですか?」
会社のディスクで思わずうたた寝をしていた俺に、西島さんが話しかけてきた。
「すみません、、、。もう会議の時間ですか?」
「後一時間後ですよ。アプリのリリースまで暫くはこんな生活が続きますね」
俺は、手元にあった目薬をさすと、少し目が覚めて頭がはっきりとしてきた。
「そうですね。だいぶ頭がはっきりしてきましたが、流石に疲れてるのかもしれません」
西島さんが、静かに机の上にコーヒーを置いた。
「何かを成し遂げるには、その事だけに集中して、他の事は全て切り捨てなければなりません。そのくらいの覚悟がなければ、大きな仕事なんか出来るわけないんですよ。あなたの父親もそうだった」
俺は亡くなった父の顔を思い出していた。父は自分のやりたい仕事の為に、命が燃え尽きるまで一人で戦っていた。そのおかげで、自分で始めた小さな店をここまでの会社に成長させたのだ。仕事以外の事など、いっさい目もくれずに、目標達成の為に走り抜けていた。
俺は、自分の人生をどんな風に走り抜きたい?努力をすればどんな物でも手に入ると思っていた。自分のやりたい仕事、灯との時間。けれど、両立する事など今の俺には到底不可能だった。
「俺はこの会社をもっと大きくしたい。もっと世の中の為に出来る事があるはずだと思う」
「あなたなら出来ますよ。あなたは、あなたのお父さんによく似てる」
西島さんが真っ直ぐ俺の目を見据えた。その時、俺の携帯電話が鳴った。見てみると、祖父からの着信だった。俺は西島さんに断って電話に出た。
「もしもし?」
『佳月か?久しぶりだな。いきなりで悪いが景子が倒れて入院したんだ。忙しいだろうが帰ってこられるか?』
「お袋が、、、?」
俺は、一瞬で全身の血の気が引いていく気がした。最後にお袋に会ったのはいつだったろうか?俺は殆ど実家に帰る事も出来ていなかった。
電話やメールはしていたが、お袋と直接会ったのは一年以上前だった。
事情を話して、俺は何とか地元に帰る時間を作った。一泊二日だけだったが、何年かぶりに地元へ戻った。新幹線に乗ると見慣れた東京の風景から、懐かしい故郷の風景に変わっていった。地元の駅に着くと、胸の奥底から懐かしい気持ちが込み上げてきて、頭を過ぎるのは灯との思い出ばかりだった。
言い訳かもしれないが、新しいアプリの開発と、店舗の海外進出で忙しくて俺は寝る間もなかった。灯を掴んでいたい気持ちはあったが、はらはらと灯の気持ちが離れていくのを感じていた。灯からの連絡もなく、クリスマスもお正月も灯が何をしているか全くわからなかった。付き合ってからこんな事は初めてだった。
ただ不安だった────。
「随分お疲れの様ですが大丈夫ですか?」
会社のディスクで思わずうたた寝をしていた俺に、西島さんが話しかけてきた。
「すみません、、、。もう会議の時間ですか?」
「後一時間後ですよ。アプリのリリースまで暫くはこんな生活が続きますね」
俺は、手元にあった目薬をさすと、少し目が覚めて頭がはっきりとしてきた。
「そうですね。だいぶ頭がはっきりしてきましたが、流石に疲れてるのかもしれません」
西島さんが、静かに机の上にコーヒーを置いた。
「何かを成し遂げるには、その事だけに集中して、他の事は全て切り捨てなければなりません。そのくらいの覚悟がなければ、大きな仕事なんか出来るわけないんですよ。あなたの父親もそうだった」
俺は亡くなった父の顔を思い出していた。父は自分のやりたい仕事の為に、命が燃え尽きるまで一人で戦っていた。そのおかげで、自分で始めた小さな店をここまでの会社に成長させたのだ。仕事以外の事など、いっさい目もくれずに、目標達成の為に走り抜けていた。
俺は、自分の人生をどんな風に走り抜きたい?努力をすればどんな物でも手に入ると思っていた。自分のやりたい仕事、灯との時間。けれど、両立する事など今の俺には到底不可能だった。
「俺はこの会社をもっと大きくしたい。もっと世の中の為に出来る事があるはずだと思う」
「あなたなら出来ますよ。あなたは、あなたのお父さんによく似てる」
西島さんが真っ直ぐ俺の目を見据えた。その時、俺の携帯電話が鳴った。見てみると、祖父からの着信だった。俺は西島さんに断って電話に出た。
「もしもし?」
『佳月か?久しぶりだな。いきなりで悪いが景子が倒れて入院したんだ。忙しいだろうが帰ってこられるか?』
「お袋が、、、?」
俺は、一瞬で全身の血の気が引いていく気がした。最後にお袋に会ったのはいつだったろうか?俺は殆ど実家に帰る事も出来ていなかった。
電話やメールはしていたが、お袋と直接会ったのは一年以上前だった。
事情を話して、俺は何とか地元に帰る時間を作った。一泊二日だけだったが、何年かぶりに地元へ戻った。新幹線に乗ると見慣れた東京の風景から、懐かしい故郷の風景に変わっていった。地元の駅に着くと、胸の奥底から懐かしい気持ちが込み上げてきて、頭を過ぎるのは灯との思い出ばかりだった。



