恐る恐る、俺は灯に電話をかけた。せめて埋め合わせに何かしなければいけないと思っていた。

 『もしもし?』

「灯?ごめん!本当に申し訳ない!」

『もう。こんな事だとは思ってたよ。待ち合わせ十七時だよね?今何時ですか?』

「二十時半ですね、、、?言い訳も出来ません」

『半年前から約束してたのに。これ、キャンセル料かかるからね』

「わかってます!何処へでも連れていきます。フレンチ、中華、お寿司何処でも、灯の好きな所言ってみて!」

『じゃあ、一緒に行こう!打ち上げ招待されたの』

(打ち上げ、、、?)

俺は、灯と一緒に風太のバンドの打ち上げに誘われて行く事になった。打ち上げの会場は六本木のバーだった。打ち上げに参加していたのは、かなりの人数の人だった。

 「佳月、凄いね。私バンドの打ち上げとか初めて。芸能人もいるよ」

灯の言う通り、参加している人間も煌びやかで、凄い世界だった。あの、いじめられっ子だった飯田が、こんな世界にいるなんてあの時の俺達は想像出来ただろうか。

 「飯田は自分の望んだ夢を叶えたんだな。
あれ?そう言えば風太はいつから、バンドで食って行こうって思ってたんだろう?」

「風ちゃんはねぇ、上京した時には飯田君とバンドデビューして、成功したいって思ってたみたいだよ。飯田君の熱い気持ちに応えたいって思いもあったし、どんどん曲作りとかバンド活動が楽しくなったみたいだよ」

 あの文化祭で、灯が無茶を言い出さなければ、今のこの世界もなかったと思うと不思議な気がした。そこへ手の空いた風太がやってきた。

 「灯!成瀬君!ありがとう!打ち上げ参加してくれて。やっと手が空いた」

風太は、すっかり人気バンドのボーカルらしくなっていて、今では沢山の女性ファンを魅了していた。オーラまで変わっていて、風太の周りは何故かキラキラとした光を纏っているみたいだった。

 「風ちゃんおめでとう!凄くいいライブだったよ。感動して涙出てきたよ。呼んでくれてありがとう」

灯はそう言いながらも、瞳を潤ませていた。余程感動したんだろう。俺は、二人のライブを見れなかった事が今更ながら悔しくなってきた。
 
 「何言ってんの?二人がいたから、俺と飯田は今こうして夢を叶える事が出来たんだよ。
 二人には感謝してもしきれないよ」

「まあ、確かに?私がメンバー選出したし?」

灯が笑いながら言った。あの時は本当に無茶苦茶な事を言っていると思っていたけれど、灯の音楽を見る目に狂いはなかったようだ。

 「成瀬君も忙しいのにありがとう。凄いよな。今や有名企業の社長だもんな。人生どうなるかわからないよな。あっ、灯、悪いんだけど、あそこのピアノで何曲か弾いてくれる?
 灯のファンがいるらしいんだよ。勿論お金は払うから」

確かに、このバーにはピアノが置いてあった。音楽関係の打ち上げの為か、ギターやベースも置いてあった。

 「何言ってるの?今日はお祝いだよ!私からプレゼントで朝まで弾いちゃうよ」

灯は、ジャズピアニストとして、ジャズバンドに参加してCDを何枚か出していた。ジャズ好きの間では、ちょっとした有名人だった。