「美味そう!今日カレーか!ラッキーありがとう」

灯は、見事仙台の大学に落ちて東京の音大に進学した。しかも、風太も同じ大学の声楽科に受かったので、二人は今も仲良くキャンパスライフを送っていた。大学に落ちた時は、灯はかなり落ち込んでいたが、俺と一緒に上京出来る事から、割と直ぐに立ち直っていた。
 灯と俺は近くのアパートに住んでいたが、灯は寂しいからと言って、合鍵でよくうちのアパートに来てご飯を作って待っていた。

 「美味しそうでしょ?早く食べよう!腹ペコだよ」

俺は灯と一緒にカレーを食べた。灯は料理が得意で、器用になんでも作ってくれた。
俺が忙しくなった事から、昔のように頻繁にデートをする事も出来なくなったが、灯は文句一つ言わずに、こうして夜会いに来てくれていた。

 「ねえ、佳月DVD借りてきたの、ご飯食べたら一緒に見よう」

「何?またどうせホラーだろ?」

「何でわかったの!?夏の夜に見るホラーっていいよね!ワクワクするよね」

「そうは言っても灯はいっつも、俺に隠れてちゃんと見てないじゃん」

「それ込みでいいんだよ!」

 灯と食器の片付けをしていると、俺は明日大学に提出しなければいけないレポートがあった事を思い出した。

 「ごめん、灯。俺レポートやんなきゃいけなかったんだ」

「えーそうなの?残念。じゃあDVDはまた今度にしようか」

 灯は少し残念そうだったが、俺に嫌味の一つも言わなかった。今日も急遽会議に参加する事になったので、灯は料理を作りながら俺の帰りを長い間待っていたと思うと、申し訳ない気持ちになった。

 「でも一緒にご飯食べれて良かったよ。私帰るね」

「帰っちゃうの?泊まっていけば?」

 「明日一限からレッスンなんだ。私も帰って少し練習するね。じゃあね」

灯が帰ろうとするので、俺は思わず抱き寄せた。

 「どうしたの?」

「いや、家まで送らせてよ」

自分から、レポートがあると言ったのに、最近灯とゆっくり過ごす事が出来なくて、俺は不安だった。俺と灯の家は歩いて十五分くらいしか離れていたなかった。地元とは違って、夜遅い時間にも関わらず、沢山の人が歩いていた。
 東京は、まるで田舎とは違った。こんな都会で二人で歩いている事自体が、なんだか不思議だった。