***開陵高校入学式***

入試の日は寝坊したが、俺はちゃんと高校に合格する事が出来た。
憧れていた高校に入学する事が出来て、俺はホッと胸を撫で下ろしたし。母は俺以上に喜んで、合格発表の日は何故かトンカツを大量に揚げていた。
 「受験に勝ったの、勝利のトンカツね!」
 普通、受験前に願掛けの為に食べる物ではないかと思ったが、母は昔から何処かずれていた。
 受かった高校は水泳部の強豪高校だった。俺は三歳から水泳をやっていて、この高校へ入って水泳部に入る事を目標にしていた。私立高校で、学費は高かったので、シングルマザーだった母に申し訳なさはあったが、母は俺にこの高校へ行って欲しいと希望していた。
 片親だからと、進路の事で息子に辛い思いをしてほしくなかったかのかもしれない。

 俺の生まれたこの地域は、春になると一斉に花が咲きみだれる。モモ、サクラ、レンギョウ、ボケ、まさに桃源郷だ。ピンク、黄色、白と色とりどりの、花びらが舞い散るこの季節が、一年で一番浮かれて美しい季節だった。
 俺は開陵高校の制服に身を包み、学校の門を潜って、自分のクラスを確認していると後ろから声をかけられた。

 「佳月〜今日は寝坊しなかったのかよ」

声をかけてきたのは、中学からの同級生の大橋(おおはし) 涼太(りょうた)だった。涼太とは、中学三年間も同じクラスで、部活も一緒だった。俺達は高校も水泳部に入る事が既に決まっていた。

 「しねーよ、今日はちゃんと時間通りに目覚ましセットしたんだよ。涼太、クラス何組だった?」

涼太は、俺の肩を組んでにやにやしながら言ってきた。

 「なんと、俺達また同じクラスだぜ」

「は?マジで?何年一緒なんだよ!いい加減そろそろ別れようぜ?もうお前とあきたよ!部活でも一緒なのに、クラスも一緒かよ」

「俺のセリフだから、それは。一年四組だってよ!早く行こうぜ!あー可愛い子いないかなぁ」

涼太は、受験前に同じ中学の彼女と別れて以来、彼女がいなかった。高校へ行ったらとりあえず可愛い彼女を作ると意気込んでいた。
 一年四組のクラスの前まで行くと、何処か浮かれた生徒達がはしゃいでいた。新しい学校への期待と、興奮で皆んなが沸き立っていた。
 
 「何か、高校の制服着てると皆んなそれなりに可愛く見えるな」

 涼太が隣りで馬鹿みたいな事を呟いた時、俺は肩を叩かれた。俺は少し驚いて振り返ると、後ろに入試の時に出会った女がいた。

 「成瀬 佳月君!やっぱり合格してたんだ!
私の言った通りだったね」

肩下まであるサラサラの髪に、ネコっぽい顔。
俺はそれまで忘れていたが、やっと思い出した。

 「あああーーーー!!!えーっと!えーっと!」

俺が必死に名前を思い出そうとしていると、彼女が切れ長の目をたらして笑った。

 「忘れてたんだ!水上 灯だよ!寝坊したのに、二人とも受かったね!しかも同じクラスだよ!」

 『四月にまた会おう!』彼女の予言通りに、俺達は再会した。

 「凄いな、、、俺絶対、水上は受からないと思ってた、、、」

「はぁ?何で!私は自信しかなかったけど」

「いやだって、公式も暗記してなかったし。何かアホっぽかったし、、、」

「失礼だから!図形は確かに点数取れなかったけど、他はばっちしだったから!まあ、ギリギリの点数で合格だったんだけど、合格は合格!皆んなと一緒だから、胸張って生きてる」

 俺達が話していると、涼太が割って入ってきた。いきり俺が知らない女子と話し出して驚いた様子だった。

 「二人は友達、、、?」