***東京都、◯◯大学キャンパス***


「佳月ー!!次休講だって!」

俺が一人でカフェテリアでご飯を食べていると、同じ学部の(こおき)が俺の所にやってきた。

 「また休講?なんか多いな」

「なぁ、せっかく休講だし、午後何もないだろ?遊びいかない?渋谷いこーぜ!」

「パス!俺バイト行くから」

「はぁ〜お前どんだけ働くんだよ?せっかく大学生になったのにサークルも入らず、毎日毎日勉強とバイトでかなり変わりもんだよな?」

初夏を思わせるような、梅雨の晴れ間だった。
俺は第一志望の大学に受かって、無事東京へ上京した。父の会社を継ぐ。俺がそう決めたのは大学の合格発表があったすぐあとだった。
 俺は上京してから、父の会社のリサイクルショップの一店舗でアルバイトを始めた。
社長の息子だからと言って、いきなり本社で働くのではなくて、きちんと現場で働いてみたかったからだ。
 店舗のバイトがない時は、本社へ行って西島さんから、経営の事や企画や営業のノウハウまで叩き込んでもらっていた。その合間に、大学の勉強と、かなりハードな毎日を過ごしていた。

 どうして、こんなに忙しい日々を過ごしているかと言うと、父の病状は刻一刻と進んでいき今は目が見えなくなっていた。
父が生きているうちに、経営について学びたい。そんな気持ちが強く、俺は焦っていた。とにかく遊んでいる暇なんてなかった。
 店舗では、社長の息子という事で、あからさまに嫌味を言ってくる人間や、扱いづらいと嫌な顔をする人間もいたが、俺は余り気にならなかった。
 どうしたら、もっと良い店になるのか、誰かにあったらいいなと思えるような店に出来るか、俺はずっと考えながら働いていた。

 その日も、アルバイトが終わってから本社の企画会議に参加させて貰ってから、家に帰った。
俺が一人暮らしをしていたのは、1LDKの何て事ない安アパートだった。
 父は自分のマンションか、もっと良いマンションを用意すると言っていたが、母がそんな贅沢は許さなかった。
 母はプライドがあるのか、俺の大学の費用も一円たりとも父に払ってもらっていなかった。
ただ、アパートの家賃は俺のアルバイトのお金で払っていた。

 俺が疲れていつものように、アパートの郵便受けを確認してから、部屋のドアを開けると、見慣れた女物の靴があった。

 「ただいま〜!」

俺が声をかけると、すぐに明るい声が返ってきた。

  「おかえりなさい!」

そう言って、灯が俺に抱きついてきた。灯はエプロンをして、部屋からは夕ご飯のいい匂いがしていた。