東京での滞在はあっという間に過ぎていき、俺はすぐに家に帰る日になった。行きと同じように、父が車で東京駅まで送ってくれた。
   
 「どうだ?楽しかったか?東京は」

 「ありがとう。凄く楽しかったし、来年の事が色々イメージができて良かった」

「そうか、なら良かった。また遊びに来なさい。って言っても俺は忙しくて何もしてやれないんだが」

そう言った父の瞼が窪んで、頬に影を落としていた。俺はそれを見ると心の中に言いようのない不安が押し寄せてきた。

 「来るよ。必ず。だから、元気でいて、そんなに行動力があるなら、治らない病気も治して見せてよ。まだ俺、何も教えてもらってないよ」

父はハッとした顔をして俺を見つめた。何処か切なそうな、しかし嬉しそうな顔をしていた。
俺は東京へ来て、俺の知らなかった父の事を知り、自分の進みたい道がわかった気がした。

 新幹線に乗って都会の街を離れて、田舎の景色へ戻って行く。まるで同じ日本だと思えなかったが、俺はいつもの地元の景色に近づいていくと、安心したし、早く灯に会いたいと思った。
付き合ってから灯と一週間も会わない日なんてなかった。
 地元の駅の改札を過ぎると、灯が俺を待っていた。灯は俺の姿を見つけると、一瞬にして笑顔になって俺に駆け寄ってきた。

 「佳月〜!!」

灯は俺に抱きつくと「会いたかったよ〜!待ってたよ!」と言った。久しぶりに灯の匂いがして、俺は緊張から解かれた気がして、幸せな気持ちになった。

 「俺も会いたかった。灯にお土産買ってきたよ」

「えー!何なに!?もしかしてミイラ男グッズじゃない?違う?」

「いや、違うけど。本当にミイラ男好きだね」

俺が名前入りの猫のキーホルダーを渡すと、灯は嬉しそうな顔をして喜んだ。

 「ありがとう!大切にするね!じゃあ、お礼に私がバックを持ってあげるよ。疲れたでしょ?」

「いや、いいって普通に重いし」

「いいから、持たせてよ!持ちたいんだよ!」

灯は何故かそう言って俺のでかいボストンバックを持ってフラフラ歩きだした。

 「ほら、危ないじゃん。重くて足元ふらついてるけど」

「舐めないで、全然平気だから」

どうしてこんな事で強がっているのか知らないが、灯はその後も重たいバックを持って、おぼつかない足取りで一緒に俺の家まで帰った。重いバックを背負って歩いている灯が少し面白くて笑えた。そして一気に家に帰ってきた気がした。