その晩、父が食事に連れて行ってくれた。
さぞかし高級な店に連れて行かれるんじゃないかと身構えていたが、父が連れて行ってくれたのは、古くて小さな中華料理店だった。
俺はお店のチョイスに少し戸惑ったが、並べられたメニューはどれも美味しそうだった。
「悪いな。もっといい店に連れて行こうかと思ったが、俺の一番のおすすめのお店はここなんだ」
父が申し訳なさそうに言ったが、俺は逆に安心していた。
「いや、物凄い高級な店に連れて行かれるのかとひやひやしてたから良かったよ。俺、高い店とか行った事ないから緊張しちゃうし」
「それなら良かったよ。さっ好きなの頼め!おすすめは天津飯だ」
父が勧めてくれた天津飯は本当に美味しかったし、俺が頼んだタンメンも野菜がシャキシャキで美味しかった。
「ここ、一人でよく来るの?」
「ああ、安いだろ?昔お店をはじめたばかりの頃、金がなくてな、ここへ来れば腹いっぱい食べれたからよく食べに来ていたんだ」
今はお金があるはずなのに、変わらずこの安いお店に通い続けているのがいいなと思った。父は自分が愛した味を俺に教えたかったのかもしれない。
「明日はオープンキャンパスに行くんだろう?俺は大学なんて行った事がないからよくわからないが、大学の四年間で自分の道を見つけられるといいな」
「まあ、高い金を払って行くんだし、ちゃんと勉強しなくちゃいけないとは思ってる」
「でもな、何者でないありのままの自分でいられるのも学生時代だけだからな」
俺は早く何者かになりたいと願っていたのに、父の言ってる事は真逆だった。
「就職して、何処かの会社に入ったら、どこどこの会社の誰だれさんと呼ばれるようになるんだ。今だけだよ、ただの成瀬 佳月のままでいられるのは、、、。十分に楽しんだ方がいいよ」
父にそう言われてみるとそんな気もしてきたが、俺もそのうち自分の肩書きみたいなものが出来るんだろか。それを考えたら楽しみでもあった。
俺達は離れていた時間の間を埋めていくように、古い中華料理店で過去の話しを沢山した。
母はどんな風に俺を育ててきたのか、父は母の母親ぶりを楽しそうに聞いていた。そして父は、どんな風に自分の会社をここまで大きくしたのか、そんな話しを俺にしてくれた。
俺はどんな偉人の話しよりも、父の話しは興味深かったし。今でも父が母の事を愛しているのを感じた。
帰りの車の中で父が俺に言った。
「佳月、彼女は元気か?あのピアノが上手な、、、灯ちゃんだっけ?」
「ああ、元気だよ。相変わらず喫茶店にピアノを弾きにきてるよ」
父は灯の事を思い出しながら可笑しそうに笑った。
「あの子は凄く面白そうな子だったよな。ピアノの腕はピカイチだったけど、本当にユニークな子でいいよな」
「お袋よりもぶっ飛んでる所があるかもしれない。そこに惹かれたっていったらそうかもしれないけど」
「大事な人なら絶対に手放すな。後から後悔しても遅いからな」
すれ違う車のライトと、夜のネオンの光が父の顔を交互に照らした。父は、母と別れた事を後悔しているんだろうか。後悔してるからこそ、俺を自分の会社の後継者にしたいと言い出したんではないかと思った。
さぞかし高級な店に連れて行かれるんじゃないかと身構えていたが、父が連れて行ってくれたのは、古くて小さな中華料理店だった。
俺はお店のチョイスに少し戸惑ったが、並べられたメニューはどれも美味しそうだった。
「悪いな。もっといい店に連れて行こうかと思ったが、俺の一番のおすすめのお店はここなんだ」
父が申し訳なさそうに言ったが、俺は逆に安心していた。
「いや、物凄い高級な店に連れて行かれるのかとひやひやしてたから良かったよ。俺、高い店とか行った事ないから緊張しちゃうし」
「それなら良かったよ。さっ好きなの頼め!おすすめは天津飯だ」
父が勧めてくれた天津飯は本当に美味しかったし、俺が頼んだタンメンも野菜がシャキシャキで美味しかった。
「ここ、一人でよく来るの?」
「ああ、安いだろ?昔お店をはじめたばかりの頃、金がなくてな、ここへ来れば腹いっぱい食べれたからよく食べに来ていたんだ」
今はお金があるはずなのに、変わらずこの安いお店に通い続けているのがいいなと思った。父は自分が愛した味を俺に教えたかったのかもしれない。
「明日はオープンキャンパスに行くんだろう?俺は大学なんて行った事がないからよくわからないが、大学の四年間で自分の道を見つけられるといいな」
「まあ、高い金を払って行くんだし、ちゃんと勉強しなくちゃいけないとは思ってる」
「でもな、何者でないありのままの自分でいられるのも学生時代だけだからな」
俺は早く何者かになりたいと願っていたのに、父の言ってる事は真逆だった。
「就職して、何処かの会社に入ったら、どこどこの会社の誰だれさんと呼ばれるようになるんだ。今だけだよ、ただの成瀬 佳月のままでいられるのは、、、。十分に楽しんだ方がいいよ」
父にそう言われてみるとそんな気もしてきたが、俺もそのうち自分の肩書きみたいなものが出来るんだろか。それを考えたら楽しみでもあった。
俺達は離れていた時間の間を埋めていくように、古い中華料理店で過去の話しを沢山した。
母はどんな風に俺を育ててきたのか、父は母の母親ぶりを楽しそうに聞いていた。そして父は、どんな風に自分の会社をここまで大きくしたのか、そんな話しを俺にしてくれた。
俺はどんな偉人の話しよりも、父の話しは興味深かったし。今でも父が母の事を愛しているのを感じた。
帰りの車の中で父が俺に言った。
「佳月、彼女は元気か?あのピアノが上手な、、、灯ちゃんだっけ?」
「ああ、元気だよ。相変わらず喫茶店にピアノを弾きにきてるよ」
父は灯の事を思い出しながら可笑しそうに笑った。
「あの子は凄く面白そうな子だったよな。ピアノの腕はピカイチだったけど、本当にユニークな子でいいよな」
「お袋よりもぶっ飛んでる所があるかもしれない。そこに惹かれたっていったらそうかもしれないけど」
「大事な人なら絶対に手放すな。後から後悔しても遅いからな」
すれ違う車のライトと、夜のネオンの光が父の顔を交互に照らした。父は、母と別れた事を後悔しているんだろうか。後悔してるからこそ、俺を自分の会社の後継者にしたいと言い出したんではないかと思った。



