「へー、一週間もいくんだ」

母がいかにもつまらなさそうに俺に言ってきた。終業式が終わって、俺はその足で父のいる東京へ行く事になっていた。
 志望大学の見学と、父の会社の見学をする予定だったが、この事を母に話すのはかなり勇気がいった。
 案の定、母はこの話しをすると反対こそしなかったが、明らかに文句がありそうな顔で俺を見ていた。祖父に俺のしたいようにさせてやれと言われているみたいで、母は表だって俺には何も言えないみたいだった。
 あまり、この話しを聞きたくなかったのか、東京行きへの詳しい詳細を話す事もなく、東京へ行く当日になっていた。

 「まあ、一週間で帰ってくるよ。泊まる場所は父さんのマンションを使っていいって」

「父さん、、、」母がまた気にしたのか、俺の顔を睨みつけながら言ってくる。これは"森川さん"と呼べば良かったと後悔した。

 「まぁ、一応父親にかわりはないから、父さんって呼んでるけど、俺にとっての親はお袋しかいないと思ってるよ」

「当たり前だよ。私がここまで大きくしたんだから、大変な時を知らずに、大きくなってから急に現れて美味しい所だけかっさらっていくなんて許せないわ」

母はそう言っていたが、少し父を心配する気持ちがあるみたいだった。父は身寄りがいないと言っていた。一人で闘病して最後を迎えるのは、許せない男だとしても不憫に思っているみたいだった。やはり、仕事で看取りをさんざんしてきている母は、父の事を見て見ぬふりは出来ないようだった。

 「まあ、じゃあ俺は行くよ」

「佳月!、、、一週間で帰ってくるのね?」

「何言ってんだよ。一瞬間後に必ず帰ってくるよ」

俺の言葉に、母は少しだけ安心したように微笑んだ。俺は緊張していた。電話はしていたが、父に会うのは二回目だし、初めて一人で新幹線にも乗るし、色々な意味での緊張感があった。
 俺は最寄りの駅から、在来線に乗って新幹線に乗り換えて、やっと着いたのは東京駅だった。駅の中は凄い人の数だった、地元の祭りでもこんなに人はいなかった。俺はただ唖然としながら改札を出た。

 改札を出た瞬間、すぐに父が俺を見つけて声をかけてきた。

 「佳月!よく来たな」そう言って微笑む父は少し痩せたが、見た目には元気そうに見えて俺は少し安心した。