帰りのバスの中でも、俺の気持ちはささくれたままだった。灯は何も知らずに普通だったが、俺はついつい態度に出てしまっていた。
 
 「ねえ、佳月なんでそんなに今日むくれてるの?」

明らかに俺が変な態度を取っていたので、流石に気がついた灯が聞いてきた。

 「いや?別に、、、。普通だけど?」

俺は、風太に嫉妬して機嫌が悪いなんて悟られたくはなくて、必死に気持ちを隠していたが多分ばればれだった。

 「普通なわけないじゃん!気になるから言ってよ」

「しつこいって!別に何もないよ!」

「何それ!そっちが怒ってるからでしょ?」

今度は灯がむくれてそっぽを向いていた。俺達はたまにこうして喧嘩をした。
 大体、俺が大人げなくて喧嘩になる事が多々あった。そのままバスに乗りながら、一言も話さず過ごしていると、灯が今日は喫茶店まで来る予定だったのに、自分の家の最寄りのバス停でブザーを押してしまった。

  「今日はもう帰る」

「えっ?」俺はまさか灯が帰ってしまうと思わなくて戸惑った。そしてくだらない事でヘソをまげていた事を後悔した。本当はいつもみたいに楽しく帰りたかったのに、つまらない嫉妬で馬鹿みたいな時間を過ごしてしまった。
 灯がバスから降りて歩く姿を見て、俺も慌てて運転手さんに言った「降ります!」バスはもう一度止まって、俺が慌てて降りるとまた走りだした。

 「灯!!」俺は灯のあとを追って駆け寄った。
灯はまだ怒っている顔をしていた。

 「何?何で降りてきたの?」

灯がそう言うと、俺は素直に謝った。

 「ごめん。俺が悪かったです!仲直りしたいです」

「何で怒ってたの?」

正直言うと、風太に嫉妬してなんて恥ずかしくて言いたくなかったが、もう言うしかなかった。

 「昼休み、風太と抱き合ってるの見てむかついた」

俺が素直に話すと、灯は笑い出した。

 「何それ、それでむくれてたの?」

「悪いかよ」俺は情けなくて思わず怒り口調になってしまう。

 「風ちゃんだよ?どうして風ちゃんにやきもちやくの?女の子を好きになるわけないじゃない?」

「でも、風太も男だぞ。わからないだろ」

「ないって。風ちゃんに失礼!」

「でも、やなんだよ!灯が他の男と抱き合ってるの見るのは!」

 俺が思わずそう言うと、灯が急に抱きついてきた。

 「え?何?」

「何で私の事そんなに好きなの?」

「いや、俺が知りてーよ」

 ずっと掴んで離さないように、大切にポケットにでも入れて持っていたかった。それくらいに、灯が俺の前から消えてしまう事が怖かった。
 それでも、俺は夏休み中に父の会社に見学へ行く事に決めていた。自分はこの小さな街に留まっていたら後悔する。いくら、灯と離れてしまっても俺はもっと広い世界に出て自分に何が出来るのか知りたかった。

 「なぁ、せっかくだからデートしない?」

 「いいね!何処いく?」

「映画でも見る?たまには息抜きしようぜ」

灯が嬉しそうに俺の手を握った。灯の手からじんわりと温かい体温が伝わってきた。

 「行こう!おすすめの映画あるよ!」

「どうせホラーだろ?」

「何でわかったの!?今めっちゃ怖そうなのやってるよ!見ようよ!肝を冷やしたい」

「何で怖がりなのにホラー見たがるの?」

「夏と言えば心霊でしょ?風物詩だよ」

俺達は夕陽を背に駅まで歩いた。灯は自分がホラー映画を見たいと言ったくせに、俺の肩からちらちらスクリーンを眺めるだけで、完全にびびっていた。この時の俺は、このまま灯との時間がいつまでも続いていくもんだと思っていた。
 自分が望んだ物は努力したら必ず手に入ると完全に勘違いしていた。