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「成瀬さん、、、成瀬さん?」

俺は夏目さんの呼び声で、目を覚ます。
眠っていたのだろうか?それともこの"記憶花火"の不思議な力のせいか。
 俺は二十五年前に、完全に戻ってしまった気分だった。

 、、、そう。灯との出会いは高校入試の時だった。彼女は出会った時からはっきりとした性格で、こうと思ったら怯まずに大胆な行動をする子だった。
 しかし、入試に向かうバスを降りた時にはびっくりした。しかも、俺まで一緒に降ろしてしまうんだから、わけがわからない。灯はあの時、何故か確信したように俺に言った。

 『四月にまた会おう』

灯はあの時、俺と再会する予感があったのだろうか?
 
 「凄いねー!!」

打ち上げられる花火を見ながら、皆んなが歓声をあげている。夏の独特な匂いと火薬の匂いが混ざり合って、懐かしさを感じた。

 「成瀬さん、昔の記憶が蘇ってましたか?」

「何でわかったの、、、?」

「そんな気がしたんです。成瀬さんの大切な記憶はいつなんですか?」

また花火が打ち上げられ、夏目さんの声もかき消された。夏目さんは車椅子の俺の側にきたようだった。俺は、息苦しさを感じながらも、精一杯大きな声を出した。

 「生涯、忘れられない女性がいるんだ」

 「忘れられない女性?」

「彼女と別れてしまった事をずっと後悔していた。彼女は僕の青春だった」

 ヒューッまた新たな花火が打ち上げられる、目は見えないはずなのに、俺は高く打ち上げられる、花火の行く末を見守るように顔を上げた。
 
 地面を揺らすような大きな音がした時に、俺はまた記憶の海に溶けていった。失った欠けらを拾いあげるように、深く深く記憶の底へ潜っていく。どうして、灯を思い出すと何処までもこんなに切ないのか、、、。俺は人生の最後に灯を探す旅へ出る─────。