アーリータイムズ

 その後、祖父が直ぐに答えは出せないだろうと言って、一旦今日は解散する事になった。
母はやはり俺と父が関わりを持つ事を嫌がっているみたいだったが、祖父は俺が決めるべきとの考えだった。
 父はそのまま車に乗って東京へ戻った。俺は父から名刺だけ受け取って、もし気になるのであれば、連絡が欲しいと言われた。

 俺は父が帰ったあと、灯を駅まで送りに行った。俺は歩きながら灯に父の話しをしていた。
灯は何も聞かずに、ただ黙って俺の話しを聞いていた。

 「どう思う?」俺はつい灯に聞いていた。

 「佳月は嬉しかったんだね。お父さんに会えて」

「そうなのかな、、、?会いたいなんて思った事一度もなかったんだけど」

「心の表面で思っている事と、心の奥底で思っている事は違うんじゃない?自分のルーツを知りたいって思う気持ちは、人間としてごく自然な事だよ」

 灯に言われると、そんなような気もしてくるから不思議だった。

 「でもお袋は怒ってたからな、俺とあの人が連絡取るのも嫌がるだろうし、俺が会社継ぐなんて言ったら激怒するんだろうなぁ」

 俺が軽いため息をつきながらそんな事を言うと、灯が少し笑った。

 「その様子じゃ、気持ちは決まってるんじゃない?景子さんが反対するのを気にしているって事は、お父さんの会社に興味があるんじゃないの?」

「いや、、、俺なんかに社長なんて務まるとは思ってないよ」

「なんかって、、、なんかなんて人間はこの世にいないんだよ。皆んなそれぞれ使命があって産まれてくるんだと思う。それに気づくか気づかないかの違いだと思う。時間がないよ、用意された運命に乗るか乗らないか。いつでも下で車輪は回ってるんだよ、さてどうするの?」

そんな事を言われても、どうしたらいいかわからなかったが、灯の言う通り、父に興味があるのは確かだった。父の病気が進行してしまう前に、もっと色々な話しをして見たかった。

 「、、、連絡取ってみるよ。お袋を裏切る事になるかもしれないけど」

「景子さんだって、わかってるはずだよ。治らない病気を抱えている人の気持ちをよく理解してるのは景子さんじゃない?」

そうだった、母はターミナル病棟で、毎日死に向かう人達のケアをしているんだった。自分の死期を知った人がどんな感情になっていくか、一番理解しているはずだった。

 「灯ありがとう」俺は灯に感謝していた。今日は灯が隣にいてくれて良かった。俺は、灯には自分の心の内を全て話せる気がしていた。

 「でもさ?佳月のお父さん、ちょっとかっこよかったよね。景子さん結構イケメン好きなんだって思ったよ」

灯がそんな事を言いながら笑っていた。

 「俺に全然似てなかったよな。父親に似たら俺もイケメンだったのかなぁ。でも、手だけはそっくりだったんだよ。何か血って凄いよな?灯が好きだって言ってくれた俺の手は、父親譲りだったんだな」

俺は自分の手を空にかざして眺めていると、灯も一緒に隣にきて、俺の手を見た。

 「手だけじゃないよ?」

「何が?」

「私は佳月の手も、顔も、中身も好き」

「、、、全部好き」

灯がいつもの様に目をタレ目にして笑った。
灯はたまにこうして、直球で俺に向かって愛情表現をしてくれた。愛のある言葉をかけてくれたり、行動で示してくれたり、それは正に的確だった。俺の心を読んでいるかのように、欲しい時にタイミングを見計らって俺の心に刺すような愛情をくれた。
 だから俺は、今日も灯に誓う。

  「俺、灯をずっと大切にするからね」